裏の山にいます
コワモテを売り物にするような低俗な男は大嫌いだが、いかつい髭面の大男の本をなぜだか面白く読み進んでしまった。
おそらく、著者の遠藤ケイさんは、単なる野蛮な漢ではなく、文章の端々に何気ないインテリジェンスが漂っており、そして筋の通った骨太な思想がきちんと存在するからだろう。
最近、釣りをたしなむ人を識り、現代の人間における狩猟本能とはナンであろうかと考えたりしていた。この日本という、人工カプセルのようなクニで暮らしているなら、別に狩猟という行為は必要ない。それでも、「狩りたい」本能が残されている人種がいるらしいのだ。それはいったい何なんだ。
遠藤ケイさんは書く。
「人がめったに入らない深い沢を単身で分け入っていくと、山が持つ独特の、戦慄するような威圧感を覚える。山の神や、山界に棲む魑魅魍魎たちにジッと凝視されているような気配を感じる。あらゆる種類の危険がヒシヒシと迫っている恐怖感の中、無防備で放り出されたような不安と孤独。逃げ出したいような畏れと闘いながら、全身の神経をハリネズミのように鋭敏に研ぎ澄まして、一歩一歩異界の奥へ遡っていく。」
そんな恐怖と闘いながら、それでも釣りをしたいのか。
農作物を食っていれば生きていけるだろう。植食者の私は思う。
が、ある種の男はそうではないらしい。まことに不思議な生き物だと思う。遠藤ケイさんの著作は、私にとっては異世界に遊ぶ楽しさがある。
「裏の山にいます」 2000.4.10発行
遠藤ケイ 著 山と渓谷社 発行
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