熊野の物語
週末熊野ツアーに行き損ねたからというわけでもないのだが、和歌山出身の大路和子さんが書かれた、熊野を舞台にした短編集を読み終えた。
宗教、社会的倫理感、そして欲望や本能など人間の根源的な煩悩との闘いが多種多様に描かれて、ずっしりと重い読後感が残る一冊。テーマは文学の世界では普遍的なものであったとしても、うっそうとした巨樹に覆われどこまでも山深い紀伊半島が舞台だからこそ醸し出される世界ではあるだろうと思う。
人の営みは、その土地の持つ“何か”と必ず関係している。地形や植生や気候条件を含んだその地の生態系中に在って、人もまた“自然環境”の構成要素のひとつに過ぎない。文明が不要だとは思わないが、快適性の問題や不便さの問題も含め、もう少し自然に寄り添って暮らしてもいいのではないかと思う。
補陀落山へ 大路和子著 新人物往来社刊 1999.2.28第1刷
収録作品1「補陀落山へ」初出 歴史読本1982年5月号(第6回歴史文学賞佳作入賞)
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