“震災”でみた植物の力
震災から13年目に入った。私自身は家族や親しい友人を亡くしたわけではないし、自宅の被害もさほどたいしたことはなく、被災地にあってはかなり運がよかった方だと思う。それでも、震災の時の記憶が甦るといまだにフラッシュバックがおこって涙が出てしまうのは、あまりにもたくさんの人々が亡くなって、あまりにも強烈な不幸が人々を襲って、その空気の中に暮らしていたからだと思う。
ホコリっぽくて妙に傾いた街、でこぼこの道路、着膨れた人々、そんな被災地で、不思議に精彩を放っていたのが早春の植物だった。がれきと化してしまった家の庭にも花々は次々と咲いた。
先日樹木の専門家から聞いた話だが、震災の年、花木が異常なくらい花を咲かせたそうだ。地面が激しく揺れて根が刺激されたことが原因ではないかと言っておられた。
火災がひどかった地域では、油分が多くて燃えやすいはずのクスノキが延焼を食い止めて、葉はすっかり焼け落ちてしまったのに春にはしっかり芽吹いたという話も聞いた。植物の生命力は人間の想像力を超えている。震災からの復興で特徴的だったのが、植物のパワーを活用した事例が多いことだ。
倒壊した建物が撤去され、空き地ばかりがめだつ街で、「がれきに花を咲かせましょう」と呼びかけて、ゲリラ的に花の種を蒔き、これをきっかけに街の緑化を進めていった人々。花壇作りで地域コミュニティを確立した地域・・・
震災は高齢化や独居老人の孤独死、商店街の衰退、地域コミュニティの弱体化など多くの問題を顕在化させた。言わば、徐々に起ころうとしていた諸問題が前倒しされて一気に訪れたようなものだ。そして、全国から集まった多くのボランティアがめざましい活躍をしたことから「ボランティア元年」とも呼ばれて、市民パワーの重要性が認識されたことも人々のコミュニティへの関わり方を大きく変えた。
そんな事例を紹介したのが『みどりのコミュニティデザイン』。KOBE発のすばらしい智恵が詰まった一冊である。人は植物と共生することでよりよい暮らしを手に入れる・・・
『みどりのコミュニティデザイン』
中瀬勲・林まゆみ 編
学芸出版社/2002.11.30発行
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