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『旅をする木』

アラスカの大自然の中に暮らして、動物・自然・人々を撮り続けた写真家、そして1996年8月にヒグマに襲われて亡くなった星野道夫さんの名エッセイをようやく読んだ。
Photo_119星野さんはあるとき、樹木など生えない北極海の海岸で流木にとまる一羽のつぐみの写真を撮ったことがあるそうだ。流れ流れて北の最果てまできた一本の木が、ある時は小鳥の止まり木になり、あるときはホッキョクギツネのテリトリーを示す匂いをつける場所となり、そして少しずつ腐敗しながら回りに栄養を与え、やがて花を咲かせるかもしれない・・・と考えるうちに
『その流木の生と死の境というものがぼんやりとしてきて、あらゆるものが終わりのない旅を続けているような気がしてくるのです。』と言うのが書名の由来であるらしい。

『アラスカの自然を旅していると、たとえ出合わなくても、いつもどこかにクマの存在を意識する。今の世の中でそれは何と贅沢なことなのだろう。クマの存在が、人間が忘れている生物としての緊張感を呼び起こしてくれるからだ。もしこの土地からクマが消え、野営の夜、何も怖れずに眠ることができたなら、それは何とつまらぬ自然なのだろう。』(“早春”より)

壮絶な大自然の中で生き、仕事をし、そして自然の摂理に死んでいった、ひとりの写真家は、本当の意味での“ナチュラリスト”だ。ナチュラリストという言葉は、何かうそくさい匂いがするのであまり好きではないけれど・・

『あと五年で2000年を迎えようとしている今、私たちはすごい時代に生きているなあと思います。資源の枯渇、人口問題、環境汚染・・・・・・ちょっと考えただけでもある無力感におそわれます。それは正しい答えが見つからないからでしょうか。けれども、こんなふうにも思うのです。ひとつの答えなどはじめから無いのだと・・・(略)千年後は無理かもしれないが、百年、二百年後の世界には責任があるのではないか。つまり、正しい答えはわからないけど、その時代の中で、より良い方向を出していく責任はあるのではないかということです。』
星野さんがこれを書いてから10年以上の歳月が経ったけれども、私たちは彼に追いつてすらいないような気がする・・

 ■星野道夫 公式サイト http://www.michio-hoshino.com/index.html

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