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完本?山歩きの作法??

えらく分厚い本である。
0704040075この厚みで、こんなタイトルがついていれば「一読するべきであろうか」と思ってしまったが・・。

 まえがきに、“本来、本書は私自身のささやかな記念のためにまとめたものである。いわば「私家版」の覚書である”とあるから、著者の個人的な思い入れ(思い込み?)を綴ったものであり、本来は他人に“作法を教えてやる”というようなものではないはずだと思うのだが、同じまえがきの中に“本書の核心部分は第Ⅲ部である。自己標準を設定し、それに基づいて山行を重ねれば、特色のある、まとまりのよい成果が得られるものと確信する。それを読者諸氏にお伝えしたいし、お勧めもしたい”と書いておられるので、本書を以って他者を啓蒙しようとの意図があるのだろう。

 核心部分という第Ⅲ部は「山歩き標準の設定と実践について」という項で、“ルールを設定して登る”というスタイルを推奨しておられる。対象となる山岳は2200m以上の主要な山(?)か、近郊の700m以上の主要な山(?)。そして、まともな登山保険もないのに大きなリスクがあるので「2200m以上の主要な山は積雪期・残雪期は登らない」「沢登り・岩登りはしない」、そして「原則として単独」。

 レビュファのヨーロッパアルプスの登攀は「岩登りの真髄」であって素晴らしいが、日本には“途中でビヴァークして2日がかりで登るような壁はほとんど存在しないので、国内の登攀には価値がない”らしい。
 そんな日本で、氷雪や岩に憧れを感じるような人たちは“小児病患者ともいうべき種類のひとたち”であり、城ガ崎や東尋坊の崖や石材採掘場跡の崖、ちっぽけな人工壁を登るようなつまらない遊びは、“小児病が行くところまで行き着いた帰結”だそうだ。

 大島亮吉や今西錦司をこきおろそうと、加藤文太郎を批判しようと別に構わないが・・
クライミングなどに関する記述では、そこここに「・・であるらしい」「・・であると聞く」という文言が出てくることから、実体験としてはいずれもよくご存じないようである。その割に、断定的な書き方であるのが気になる。よく知りもしないことを断定的に書くというのは、“書き手”の姿勢としていかがなものであろうか。「私家版」で世に出さないのであれば別に結構だが。

 読んで受けた印象からすると、この方は“山登り”が本当は好きではないのではないかと思う。高山は混雑して不快だし、低山は自然味が乏しくて辟易。もはや新鮮な感動がなくなったので、山登りはおやめになったそうである。やめた人に作法を説かれても・・・
 スキーヤー、バイク乗り、MTB乗り、渓流釣りをする人、狩猟をする人、山岳写真家・・は、精神衛生上、本書を読まないほうがよいと思う。クライマーは絶対読まないほうがいい。怒り出すこと請け合いである。
 それから、やかましく、あつかましく、よくはしゃぐ、下品な“山女”とか、粗野で気取っていて自己顕示欲・虚栄心がみえみえでおせっかいなのが特徴である“ベテランの山男”などもこの本は手に取らない方が無難だろう。

「下界で、つまらない人間だから、山へでも登るしかないのだ」・・図星ですが。相済みませんね。
「『山男』と『思索』『自然科学』『芸術』などとは、まるで何の関係もない。買い被りもいいところだ。冗談もほどほどにしろ。そんな資質など『山男』のどこにも見当たらない。」・・いや、そうかもしんないけど、それってあなたが昔々勝手に描いた理想像なんですよね。それに対して怒りを述べられても・・読者には責任取れません。

 山登りを好む人のうち、いったい何人がこの本を読んで共感を感じるのだろう。出版社は何を意図してこれを商品化したんだろう。どこかの書評で「頑固親父のナントカカントカ、筋が通っている」って書いてあったけど、筋、通ってるかなぁ?極にゃみ的には筋が通っているというふうには読めなかったが。山屋の中で筋が通ってると思うヒト、いるのかな?ま、現役の山屋でこれを最後まで読むよな酔狂な人はあまりいないだろうけど(え?極にゃみ?・・・)。

 クロダ先生も「買っていたら怒っていたぁ。」と書いておられるけれど・・
「山、ちゃんと登ってから、作法について考えても遅くなかったのにね。」って、無理ですね。もうおやめになったんで。
 せめてこれから山登りを始めてみたいと考えている人が、入門書と勘違いして読んだりしないことを祈るだけである。

「完本・山歩きの作法」
2006年6月10日 初版第1刷
西田書店 発行 2200円

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