『登山の法律学』
登山家である弁護士が山岳事故における法的責任を論じた画期的な一冊。
「山では自己責任が原則」というのは当然のことながら、本当にそのことがどれだけ認識されているのか・・山での事故で訴訟が起こるのが最近の傾向であるらしい。
自己責任の原則がわかってないからつまらない事故が起こったり、事故の原因を他人のせいにしたくなるのでは・・と思うがいかがなものであろうか。法律的な要素以外にも、読む価値のある一冊だと思う。
以下、少し引用してみる。
* * * * *
文明の発展とともに科学技術や知識偏重の時代となり、現在、人間はあらゆるものを管理し、支配、人工化することによって安全性を確保できるという幻想が蔓延しています。同時に、この傾向は自然を管理・支配することによって利益を得ようという経済的な動機によって加速されます。
* * * * *
ところで、本来、山に登る行為自体は、基本的に自然に与える影響の少ない行為です。しかし、登山道の整備、山小屋の営業、大量の登山者による屎尿、林道の開設などにより自然環境を著しく損ないます。
* * * * *
バフィン島では避難シェルターがある以外には、宿泊施設や橋などの人工的なものは一切ないので、ここでトレッキングをする人は、テントや食糧を背負い、何十か所も沢を渡渉しなければなりません。そのために、ときどき渡渉に失敗して死んだり、凍死するトレッカーがいますが、すべて自己責任です(バフィン島の国立公園の管理人は、自然の危険性についてしつこく説明したが、管理人は明らかに説明義務を自覚していた)。
* * * * * 引用以上
この視点は非常に重要なことだと思う。自然な状態で“そこ”に行ける能力のない人までも行けるように整備をしてしまうからいけないんだ・・。
ハシゴも鎖も撤去したら、剱岳なんか大混雑しなくなるんだろうな~。それで別にええやんか、っていうと自分勝手とかって批判されちゃうのかな?・・んじゃ、岩場の過剰な残置支点はどうよ(自分がヘボいのを完全に棚に上げてますけどね・・)。
『山の法律学』
溝手康史 著
東京新聞出版局 刊
2007年7月9日 初版発行
| 固定リンク
コメント