凍傷について
『感謝されない医者―ある凍傷Dr.のモノローグ』から凍傷の病態についての要約を。←ポストモンスーン期エベレスト初登頂を果たした際に重度の凍傷を負った加藤保男さんの写真を掲載した同書の1ページ
(概論)
・凍傷は稀な疾患であり、多くの医者は診たことがない。
・症例を見たこともないのに文献だけで書かれた医学書、間違った治療法が堂々と書かれた本もある。
・山ヤにとっては決して稀ではないが、何科を受診すればいいのかもわからない。軽症なら皮膚科?切断が必要になれば整形外科、皮膚移植が必要になれば形成外科・・・重度になれば手指や足趾切断が必要になるが、スポーツで切断術が必要になるのは登山だけである。
(発生メカニズム)
・寒冷に長く曝されると、交感神経の働きにより、放熱を減らすために血管が収縮する。心臓から遠い手足の先は血管が細いため、毛細血管が収縮すると血管内壁に赤血球が凝集する。血行が悪くなり、循環が停滞する「血液泥化現象」が起こる。
・動脈の流れが悪くなると同時に静脈も停滞し、手足が腫れる。次第に血管壁が変性して血液内の水分が血管外に浸み出し、水泡を形成する。
・さらに進行すると血液の流れが止まって血栓ができ、酸素や栄養が供給されなくなるため組織が壊死する。
(凍傷が起こる原因)
・絶対条件は寒冷であるが、精神的なストレスも大きく関与している。
・寒冷、脱水、疲労、飢餓などの精神的・肉体的ストレスが交感神経を刺激し、その結果副腎からアドレナリン・ノルアドレナリンが分泌され、血管を収縮させる。
→条件の悪いビバークや遭難は凍傷を起こしやすい状態になる。
→同じ装備で同じように行動していても、疲労度や緊張度が高い人は凍傷になりやすい。
★凍傷の原因は初歩的ミスがほとんど。
気象条件に不適切な装備、風で手袋を飛ばされた、外に置いた冷たいままの靴を履いた、素手で作業をした、濡れたままの靴下や手袋を着用・・
※凍傷になりやすいのは、手の中指~小指の3本と、足の拇指の内側、小指の外側。
(凍傷の程度と症状)
1.表在性凍傷・・表皮か、一部真皮に達した状態
①ジンジンした痛み/交感神経が優位になって血管が収縮、末梢への血流が悪化。
②痛みを感じなくなる/末梢神経への血流が途絶。チアノーゼを呈し、冷たくなる。
③皮膚の色が紫からやがて白くなる
2.深部性凍傷・・・真皮、皮下組織、骨に達した状態
黒紫色の皮膚、白蝋化、腫れはあまりなく萎縮している。
(凍傷の経過と注意点)
・登山中に凍傷になったら、すみやかに下山すること。
・温かい飲み物を摂取することが重要。
・水泡・血泡は慎重に保護し、決して破らない。
・温浴は有効かもしれないが、全身の保温ができること、お湯の温度を一定に保てること、温浴後に患部の保温を維持できること、その後の移動に手足を使わずにすむことなどが条件。
・温浴が無理なら、腋下で温める方法もある。
(凍傷の予防法)
・行動をスピーディーに。寒冷に曝した時間の長さがその重症度に比例するので、行動時間を短くすることは予防の重要な要素。
・脱水に注意する。行動中テルモスから温かい飲み物を飲むことは凍傷予防の薬と考えること。テント内でも水分を多めに摂るようにし、アルコール類は利尿作用があるので控えめにする。
・湿度と風に配慮する。濡れたり湿ったりしているインナーは低体温を誘発する。
首の第七頚椎横突起のところに星状神経節という交感神経の塊が左右にあるが、この部分が頭・頚部・肩・腕の血管の流れを調節しているので、この部分を冷さないことが大切。
また、部分的な注意だけでは凍傷の予防に充分とは言えず、体全体の保温が重要。
・喫煙は禁忌。
(寒さに慣れる)
・800例の凍傷患者の出身地をみると寒冷地の人はわずかで、ほとんどが都会生活者。
寒さに対する早めの対処が遅れている例が多い。冬季の山行を多く経験して対処法を学ぶしかない。
★山登りとは、ほかのスポーツ以上に自己管理能力を問われるスポーツである。
(終章“山に想う”から引用-結びの部分)
登山は、いろんな楽しみ方があっていい。しかし、大自然が相手であり、そこには常に謙虚な気持ちが必要である。凍傷のリスクを少なくするためには、たゆまぬ体力作りと技術と知識、そして自然への謙虚さを忘れてはいけない。所詮、山登りは大自然の中で小さな場所を借りて遊ばせてもらっているのだから・・・・・・。
『感謝されない医者―ある凍傷Dr.のモノローグ 』
金田 正樹 著 山と溪谷社 刊 2007.3.1 発行
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