『記憶がなくなるまで飲んでも、なぜ家にたどり着けるのか?』
・アルコールはハッキリ言って毒物だが、“絶妙な毒物”
酒を飲むと、胃壁や小腸から吸収されたアルコールが血中に溶け込み、通常毒物の侵入をシャットアウトしている脳に入り、大脳皮質の活動を低下させる。すると、抑制が解放されて脳の活動が活発になる=気分がよくなる、楽しくなる。
ちなみにこの「抑制からの解放」という作用は、アルコール以外の物質ではうまくいかないそうである。
・アルコールによる大脳皮質への段階的影響
①前頭前野を麻痺させて抑制を解放・・・楽しい気分の酔っ払いハイ状態②小脳の機能に影響し、運動失調になる・・・千鳥足状態
③記憶を司る海馬に影響し、新しい記憶が作れなくなる・・・お、覚えてナイ!状態
④中枢まで麻痺・・・泥酔、または急性アルコール中毒状態=死亡の可能性
というワケで、②の足がふらついた段階でやめておかないと危険。
・「脳ナビ」とは、“ナビゲーションニューロン”という神経細胞の働き
記憶がなくなるほど酔っても、よく知っている道であれば脳内に蓄積された記憶を頼りに帰宅経路を読み出し、視覚情報に対応して判断することが出来る。
※泰羅教授らの研究で、頭頂連合野の機能の基礎研究として世界的に高い評価を得たが、マスコミでは「酔っ払いニューロン」扱いだったとか・・笑
・脳の「抑制」というシステム
脳内には、神経細胞を抑制する仕組みがある。(「癒し」の物質として話題になったGABA(γ-アミノ酪酸)もそのひとつだが、食品として摂取しても脳に届くことはない)
この抑制を解除することは通常不可能で、「火事場の馬鹿力」的なパニック状態などでしかあり得ないが、アルコールは前頭前野に働きかけてごく浅いレベルで抑制を解除する働きがある。
・記憶を司る脳内メカニズム
「記憶」は、①作成 ②保存(書き込み) ③読み出し というプロセスで管理運用されている。①は海馬が、②は前頭前野が、③は側頭葉が担当している。
酔っぱらって記憶がなくなる、というのは、アルコールで前頭前野が麻痺しているために記憶の保存ができていない状態。ファイルは作成したけどHDに保存する前にシャットダウンしちゃった・・って感じか。だから、飲んでいた時のことを次の日サッパリ覚えてなくても、ワリカンはちゃんと払ってるし、電車にもちゃんと乗ってるし、フラついてぶつかった電柱にもちゃんと謝ってるし、他人の家に侵入して寝たりはしてないし、きちんと自分のベッドに到達してから意識とともに記憶を失うってワケなんだな。
・アルコールは脳を萎縮させる
摂取したアルコールの量に比例して、脳の前頭前野が萎縮する。これは、摂取総量の問題で、一度に大量に飲んだ、とか定期的に飲まない日を設ける、など飲み方とは全く関係がない。
基本的に脳細胞は20歳くらいを境に減少の一途をたどり、身体のほかの細胞と異なり再生はしない。しかしながら、脳神経細胞同士をつなぐ神経線維(シナプス)の量は使うほどに増えて、どれだけ脳を使えるかはシナプスのネットワークの質と量による。
加齢や飲酒によって脳神経細胞が萎縮してネットワークが壊れていくが、リハビリ(?)によって再構築することは可能。
・脳神経細胞の再構築=前頭前野のトレーニング
読み書き、計算といった「脳トレ」が有効だが、意外なことに「料理」が非常に効果的だそうだ。酒飲みはすべからく酒のアテを自分で作るべし・・クリエイティブなことをしてればいいってコトかな。
なんたってこの本で面白いのは、最終章の<酒脳対談>。
“飲めない”川島教授と、“底なし”の泰羅教授のやりとり。特に泰羅教授の主張は呑み助的にはとても面白い・・酒飲み必読の一冊である。
『記憶がなくなるまで飲んでも、なぜ家にたどり着けるのか
-身近な酔っ払いに学ぶ脳科学』
川島隆太・泰羅雅登 著
ダイヤモンド社 刊
2007.11.29 初版第1刷発行
| 固定リンク
コメント