『かくて日本人は飢死する』
表紙のビジュアルがなんだか怖い。独特の不思議な言葉遣いがまた怖い。しかも・・
『本書において警告も対策も模索もしない。今更どうにもなりはしない、先を思わず只今をせいぜい楽しむよう、今日一日充実した日を過ごされるよう願って書いた。
平成十二年五月 野坂昭如』ってゆー、序文がまた怖い。
しかしながら・・
世界屈指の“飽食の国”と言われる日本の食糧自給率は、穀物で27%、カロリーベースで39%(2005年度)。世界178カ国中の130番目。主要先進国中最低レベル。
30年後、世界で5億トンの穀物不足が恒常的になるといわれている今、「かくて日本人は餓死する」って話を、荒唐無稽と一笑に付すことができるだろうか。
いまや日本人のほとんどが実体験として知らない「飢餓」を経験した著者が、崖っぷちにある日本の食糧事情を厳しく批判。敗戦後、アメリカの政策によって破壊された伝統的食文化。弥生時代以来営々と培われてきた米作りの仕組みをとことん殺す農政。充分な検証もなされないままどんどん市場に侵入している遺伝子組み換え食品・・。あまりにも危機感のないこの平和ボケの国では、かなり過激に感じられる語り口ではあるが、読んでみるべき一冊だと思う。
以下、極にゃみ的抜粋
『ぼくの飢餓体験は昭和二十年夏あたりから、二十二年暮れまで、最後の頃は餓死寸前だった。この約二年半の記憶がまだこびりついている。そして、今の日本は、いつ、あの列島住民、明けても暮れても、食うことばかり念頭にあった状態に堕ちこんでも不思議はない。本来、島国は食いものについて自給自足の仕組みが成り立っていればこそ、人間、生物が棲みつける。わが国のありようは、この本来の姿と、まるでかけ離れてしまった、地球で抜きん出た食いもの輸入大国。』
『日本は、一度の敗戦をうまく処理できず、まんまとアメリカにしてやられ、歴史に例のない大量餓死者が出て当然の食いものの仕組み。後十年もすれば豊葦原瑞穂の国に、この恵まれた自然、培われた知恵によって、伝えられてきた、まともな米作りは姿を消す。(略)日本は、豊穣な大地、農にふさわしい気候に恵まれながら、これを弊履の如く棄て、即ち当然の報いを受ける。
ではどうしたらいいか。どうにもなりはしない。みなさん携帯電話片手に、パソコンの前で、虚ろな眼、特有のふくれた腹、枯れ木の如き手足、冷え冷えと餓死する。政府は、せめて今のうちに、麻薬を大量輸入備蓄しておくべきである。たとえば阿片なら、これを吸飲することで飢えの苦しみをまぎらせ得るし・・(略)・・』
ね、ね、ね、すんごく怖いっしょ、独特の文体が。でも読んでよかったと思う。
『かくて日本人は飢死する』
野坂昭如 著
PHP研究所 刊
2006年6月 初版第1刷 発行
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