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『減反神社』

農民作家として知られる山下惣一さんの初の小説集だが、いまや入手困難・・
0806250005以下「あとがき」より抜粋。
 よく知られているように、かつての農村は封建的地主制度のもとで搾取、抑圧され、名作といわれる長塚節の「土」の序文で夏目漱石のいう「・・・・・・ただ土の上に生みつけられて土とともに生長した蛆同様に憐れな百姓・・・・」の状況であったらしい。以来、大正、昭和とこの蛆虫たちは生きつづけ、戦後、GHQの農地解放によって長い抑圧と搾取から解き放たれ、それを契機として政治的には保守化の傾向を強めていくのである。戦後の混乱がおさまり、朝鮮戦争をきっかけにこの国が工業化社会として発展するにつれて、ふたたび自作農となった農民たちは新たな軛につながれることになる。農業の近代化、選択的拡大、自立農家育成、農産物輸入の増大、コメの減反、みかんの過剰・・・・・次々と打出されてくる政策と不安定な経済状況にふりまわされ、右往左往し、日日の暮らしを支える現金を求めてさまよっているうちに、ふと気づいてみたら村も農業もすっかり変わっていた。農業だけでやっている家はごく小数になり、村は混在化し、農家といえどもマーケットへ野菜を買いに走り、子供は農業をつがず、嫁のきてはなく、将来になんの希望も展望ももてず、しかし、生活は都市化し、地価は高騰し・・(略)・・

著者が青年時代から「ひとりの百姓として生きてきたのはそういうひとつの時代」であった。そういう時代の農村をリアルに描いた味わいある短編が5作。昭和54年度の地上文学賞を受傷した表題作をはじめ、いずれも農村(漁村)のくらしを淡々と描きながらも、そこはかとないユーモアとペーソスが溢れ、しみじみと考えさせられる作品集だ。新田次郎さん、野坂昭如さんが高い評価を下されているのもなるほどと思う。極にゃみ的には、地に足のついた、軸のブレない野太い知性を尊敬する。

『減反神社』
昭和56年1月3日 初版発行
山下惣一 著
家の光協会 刊

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