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「東京島」

無人島に漂着した人々のサバイバル劇・・Photo_3いかにもありがちなテーマなんだけど、そこは“生身の女性”をリアルに書くことで定評のある桐野夏生さん。ぐぐっと引きつけられて、一気に読了させられてしまった。
クルージング中に遭難した中年エリート夫婦。離島での苛酷なアルバイトに耐えかねて脱走したアウトロー系の若者グループ。何のトラブルか置き去りにされた中国人密航者。吹き溜まりのような島に漂着してしまった32人だが、その中に女性はたった一人だけ。その女性を巡って・・

その女が、若くもなければ魅惑的でもないという設定が最近の桐野さんらしい。平凡な妻だった彼女が、ためらいなく“女”を駆使して有利に立ち回るさまは、ひたすらしたたかで、そら恐ろしくすらある。
しかし、人間なんて結局は欲望やエゴや打算に動かされているものなんだろうな。裸でいるとマズいから服を身につけているように、むき出しの本能はちょっとマズいから、薄皮一枚で隠してたりはするけれど・・?(そういえば、登場人物の中に、だんだんおかしくなって裸で暮らすようになる人がいたのが象徴的・・。)

「OUT!」の雅子とか、「ファイアボールブルース」の火渡は女としてカッコよかった。が、この小太りの中年女は・・カッコ悪くて、おまけになんだか怖い。

少し前に映画化もされた話題作「魂萌え!」の主人公敏子は初老の域に入りつつある平凡な女で、そんな人物を主人公に仕立てて波風の中に投じる作家に「おおっ」と思ったが、この「東京島」は、また全く違う系列。
予想外の展開が二転三転した挙句、そういう結末に落とすかよー!?という感じ。ストーリーとしてはとても面白い。が、ひとりとして魅惑的な人物が登場しない小説って・・

娯楽系の小説や映画って、現実にはいなさそーなカッコいい男や女を見たい、って部分があると思う。「OUT!」や「ファイアボールブルース」は主人公がカッコいいから読み返すかもしんないけど、「魂萌え!」とかこの作品は再読はしないだろうな。でも、とても面白い作品だった。桐野センセLove!

『東京島』
桐野夏生 著
新潮社 刊
2008年5月 初版発行

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