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『森と田んぼの危機』

農学博士として稲・稲作などに関する研究を続けてこられた著者による、Photo 生態系の危機に関する指摘と、危機を脱するための模索を綴った一冊。古代から、人々は森を伐り拓いて都市化してきたが、オーバーユースで周辺の森が滅ぶと、都市もまた滅ぶという歴史を繰り返してきた。そんな中“再生可能な利用”を続けてきた日本の伝統的な稲作文化。
・・さまざまな問題点が指摘される中で「多様性」がひとつのキーワードとして挙げられている。
現在、日本の米生産の現場では、コシヒカリをはじめとするほぼ単一の品種だけが作付けされている。植林された森もまた、スギやヒノキなどの単一樹種で構成されている。生態系にとって多様性というのは不可欠の要素であり、多様性を排除してきた手法そのものがそもそも間違っているのではないか?というのが基本的な論点。

いくつかの部分を抜粋。
「農業生産は、日本でもアジアの他の地域でも生態系というシステムに貯えられた貯金を食いつぶしながら、そして生態系につけをまわしながら伸びてきた。しかし、生態系にはもはや、今までのように、人間のつけを吸収する許容力は残されていない。・・(中略)・・私たちはこれから、生態系の安定を回復することと人類のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を確保するという、二律背反的な命題に立ち向かわなければならない。」

「学校ぐるみで予防接種を受け、うがい、手洗いを励行させ、衛生教育を押し進め、さらに下水道を整備してトイレを水洗にし、家庭の水周りをきれいにし、と、私たちの生活はどんどん清潔になった。
もちろんそれ自体はよいことで私もそれを享受している。・・(中略)・・だが一方で、私たち自身が、体内に微生物を住まわせ、種々の生物との共存の中でしか生きられない生物そのものなのだという教育はほとんど行われてこなかった。そのために、私たちは必要以上にきたないものを排除し、その結果、無意識のうちに身の回りの環境から多様な生き物が共存する条件を失ってきたように思われる。抗菌グッズという冗談のようなものが飛ぶように売れるという社会の病理は、実は、私たち自身の生物としての命を危険に追いやるという皮肉な結果を招いているのである。」

約10年も前に書かれたものであるが、とても興味深い一冊だった。

朝日選書『森と田んぼの危機(クライシス)―植物遺伝学の視点から』
佐藤 洋一郎 著
朝日新聞社 刊  1999年11月初版発行

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