『還るべき場所』
笹本稜平さんの長編小説を読んだ。K2の未登ルートを登攀中、ブロック雪崩に遭って恋人でもあるパートナーを亡くしたクライマーが、失意の4年間ののちに再びK2に挑む・・と、簡単に言うとそんな話なんだけど・・
“デスゾーン”と言われる高所での登山、公募登山について・・現代的ないろいろな問題をうまく盛り込み、巧みにストーリーが展開する。高所登山のことはあまり知らないけど、登攀シーンなどでボロが出ちゃう山岳小説・漫画が多い中、かなり正確な描写なのではないかと思われる。ネタバレするのでストーリーは書かないけど、とっても面白かった。
主人公もさることながら、公募登山隊に客として参加した実業家がカッコイイ。彼は60代の半ばで、それまで仕事一筋で生きてきたんだけど、心臓ペースメーカーを埋め込んだ身体でありながら、極限的なシチュエーションで驚異的な活躍をみせる。そのセリフを一部引用すると(酸素を使用するしないって話で・・ あ、“極限”に至る前だな。)
「自然は人間の敵じゃない。征服すべき対象でもない。我々にできるのは、その内懐で謙虚に遊ばせてもらうことだけだ。好きこのんで空気の薄い場所へ出かけていって、苦しいから酸素を吸わせてくれというのは虫がよすぎるんじゃないのかね」
ううう、カッコイイ・・
「誰もが山に惹かれるわけじゃない。しかし現実の山じゃなくても、誰もが心のなかに山を持っている。それは言葉では定義できないが、どんなに苦しくても、むなしい努力に思えても、人はその頂を極めたいという願望から逃れられない」
ね、・・読んでみたくなったでしょ?
『還るべき場所 』 笹本 稜平 著
文芸春秋 刊 2008年6月 初版発行
| 固定リンク
コメント