『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか 』
2009年7月16日、北海道・大雪山系トムラウシ山で商業ツアーの登山パーティ・ガイド3名+顧客15名のうち、8名が死亡するという夏山登山史上最悪の大量遭難事件が起きた。
日本の登山界を揺るがす大事件であり、今年の2月に神戸で開催された「トムラウシ遭難事故を考えるシンポジウム」でもいろいろな側面から検証がなされたが、この本では、山岳遭難に関する著書でも知られる羽根田治氏、山岳気象に詳しい飯田 肇氏、低体温症の第一人者である金田正樹氏、スポーツ生理学の専門家・山本正嘉氏がそれぞれ専門的観点からこの事故に関して検証・解説。どの切り口も非常に興味深く、山を志す人であれば一読すべき一冊だと思う。
『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか ~低体温症と事故の教訓 』
羽根田 治、飯田 肇、金田正樹、山本正嘉 共著
山と溪谷社 刊
2010.7.16初版発行
それにしても・・
極にゃみ的に驚くのは、当該ツアーの生還者の中の複数の方が、同じツアー会社の登山ツアーをリピートしているという点。いろんな意味で衝撃的な事実だと感じた。
羽根田氏はこう書いている。
「実は、この遭難事故の取材を進めるに従って、うすうす感じはじめていたことがある。それは、ツアー会社やガイドに対して、ツアー登山の利用者が求めているものと、私がこうあるべきだと感じているものとの間に、どうも大きなギャップがあるらしい、ということだ。」
その点に関しては、本書を読み進めるうちに私自身も違和感を感じていた。
ツアーで“あなた任せ”な登山をするひとと、我々のような“単なる山ヤ”の間には大きな意識のギャップがあるのでは・・
生還者のコメント
「ツアー登山に参加していれば、イザというときにはガイドさんが助けてくれる。それに、交通機関や山小屋の手配なども任せられるし、道案内もしてくれるから」
・・イザというときにガイドさんは助けてくれませんでしたね。残念ながら。
リスクも含めて、“自分でやる楽しみ”という点で全く価値観が違うんだろうな。交通機関の手配も、事前のコース研究も、現場でのルートファインディングも、全部山の楽しみだと極にゃみ的には思っているけど。
ま、そんなだから、“たいしたところには行けてない”んだけどね。
と、言いつつ、じつのところは自分でリードできないピッチがあるのがわかっていて、力のあるリーダーに頼る山行もしてるのが現実だけど。でもそのときもしも何かあったら、何ができるか、何をすべきか・・ってことは常に考えてはいる。
そして、イチバン達成感があるのは、やっぱり“頼り頼られる関係”ではない「少女隊山行(※)」なんだよなー。レベルは低くても。
※少女隊=“女度が少ない女子”で構成されたチーム。極にゃみ的にイチバン楽しい。
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コメント
>経験豊富な人がいる…という大きな安心感に繋がったから…
よくあることですねー。
でも、未経験のヒトが、経験者の力量を判断することってむずかしいですよね。
ツイッターの方でもちらっと話題になっているのですが、経験年数なんてあてにならないし、じゃぁトータルの日数なら、とか、結局はやってきたことの質でしょうとか・・・・
ある程度経験している人なら「あの人なら安心」とかって判断できるのかもしれませんが。
いずれにせよ
>虚をついたところにいつでも襲い掛かって来る
ということですね。
>怖いのは、慢心。
まさにその通りだと思います。
投稿: にゃみにゃみ。 | 2010年9月 1日 (水) 14:06
>山岳会とかで誰かが企画した山行にほいと乗っかってついてくだけのヒト
野山を楽しむための延長で山登りに行く人は
熟練者の企画登山など…魅力的だしーホイと乗っかる。
私もかつて山ヤと称する人に富士山誘われ
ほいと乗っかってしまった。
何人かの仲間に声がけしてツアーのように行った事がある。
でもそれは経験豊富な人がいる…という大きな安心感に繋がったから…
事故にはならなかったけれどー下山の判断基準もよく分からない。でもリーダーが舵取りだから、仰せの通りに。人間性もあるよね。
腑に落ちず…昨年、再チャレンジ。別なリーダーで。
わかったことは、事故に会う会わない、敗退か否かも
リーダーの力量によることが多い。
信頼おける経験豊富なリーダーなら未熟者は同行依頼した方がいい。恥ずかしいことではない。
そうやって未熟者も熟練になっていく。
事故は虚をついたところにいつでも襲い掛かって来る
熟練者も、未熟者も怖いのは、慢心。
投稿: はりせんりりー | 2010年9月 1日 (水) 12:27
めんどくさい・・ねー。
わかる気もするけど・・・
でも、ツアー登山も、山岳会とかで誰かが企画した山行にほいと乗っかってついてくだけのヒトもそうなんだけど、要は“自立してない”ことに問題があると思うんだよね。
いつも言うんだけど「CLが事故ったらどうする?」って・・・
“あなたまかせ”な道を選択するってことは、じつはとてもコワいことだってことになかなか気づきにくいですよね。
>大人数でなんとなく安心
と思ってるヒト、少なくないと思うけど。
投稿: にゃみにゃみ。 | 2010年8月31日 (火) 07:20
こんばんは。
ちょっとこの本はまだ読んでないのですが・・・
ツアー登山が受けるということの理由のひとつに、交通機関や段取りを旅行会社なりガイドなりがやってくれる、手間がはぶける、大人数でなんとなく安心etc・・・いろいろあると思いますが、やっぱり人間って年取るにしたがって面倒くさがりになるんでしょうね。
自分の親世代、あるいはもうちょっと年下の世代の方でも、なんか取り組まないといけない課題があって、考えたり検討しないといけなくなると、すぐ”面倒くさい”って雰囲気になります。若い頃からずっと継続して山に入っておられる方はまた全然違いますけど、ある程度お年をめされてから始められた方は、新しいことを考えたり覚えたりが本当にこわいし、面倒くさいみたいです。(@うちの会でも) だったら、もうきっちり法規制とまでいかなくても条例とか設けちゃうしか、対策はないんじゃ?と思います。
まあこれは、中高年登山者を非難したい、あるいはする目的で述べたわけではないですし、若者も若者なりの事故があるわけですが、今回は身辺にいらっしゃる中高年の方を見て思った感想を述べたまでです。
ちょっとえらそ~でした? すみません。(^^;)
投稿: ぽん♪ | 2010年8月30日 (月) 23:50
白馬に日帰りねー
ツワモノですね。そりゃコースタイム的にはいけなくはないけどねー。
やっぱり、「知らない」ってことが一番怖いことですね。
先日も「車窓から見てふと行ってみたくなって」街着のまま富士山に登って救助要請をした若い男性のニュースがありましたが、まさにそうですね。
生まれてからこの方、人工的な環境からほとんど踏み出したことがないひとに、自然の奥深さ、恐ろしさなんてわからないんでしょうね。
「アウトドア派です」と言っても、オートキャンプや河原のバーベキューのことだったりするしねー。
「道標が整備されてないから歩けません」とか・・・
投稿: にゃみにゃみ。 | 2010年8月29日 (日) 07:11
会社時代、男子後輩に、

「今度、何人かで日帰りで白馬(大雪渓)登ってみようと思ってるんですけどどうですかね。」と相談された
ことがありめっちゃびっくりしました。
もちろん山経験ナシの子ばっかりの友達同士、
体力全くない女の子も一緒に・・・
日帰り論外だし、ハイキングと一緒の感覚だし~
絶対あかんと言いましたけど、5、6時間で行けるなら
日の出とともに出発したら、日暮れまでに降りれますよね、って
アイゼンだっているし、慣れてなかったらもっと
時間かかるし靴もそれなりにいるしハイキングとは違う、山をなめたらあかん~!と断固反対した経験が。
後輩、行けると思うけどといいつつ結局やめてました。
こんな感覚だったりするんだ~とビックリでしたよ~。
今でもそんな人たちいるのかもしれないですねえ。
投稿: enty | 2010年8月29日 (日) 01:01
>弔う死
うわー・・・・そうだったのか・・・
それにしても、ツアー登山という登山形態そのものを否定する気は私にはないのですが、
「こういうことだって起こりうる」ってことをあまり危機意識がない方々に認知してもらう機会にはなりましたね。教訓というにはあまりに大きすぎる犠牲ではありますが。
ツアーでなくても、「リーダーに頼りきり」で自立してないメンバーはたくさんいますよ。
え?自分はどうだって? もちろん力不足なときもあるんですけどね。
投稿: にゃみにゃみ。 | 2010年8月27日 (金) 14:12
NHKの特集で「…遭難事故を検証する」を見ました。
あの報道を見た限りでは…色々な条件がかさなった中で
起こるべくして起こった遭難のように感じました。
きちんとしたポリシーを持っていたら、ツアーで登山をしようなんて考えない。危機管理が出来ないからガイド付きを選び、そのガイドの判断に身を委ねる。
そのガイドが体験不足。
>誰の責任とか…
ではなく、なんてったって、あれは、
「弔う死(トムラウシ)山」なんですから
すまんです、読後ではなくて。
投稿: はりせんりりー | 2010年8月27日 (金) 13:36
『登山ではなく山岳旅行と呼称し……』
ですか・・・うーん。その記事を読んでないので
なんともアレなんですけど~。
“消費者”が提供される商品なりサービスなりの質を見極める目を養う必要性はもちろんありますね。
事故を起こすような体制の会社にも、
事故を防げなかったガイドにも責任があるように、
事故を起こしてしまうような会社を選んだことにももしかしたら・・(ツアー登山における自己責任、に関する議論はまた別として)
同じ日程で、同山域にツアーを出していたアルパインツアーサービスでは、気象情報を提供しているメテオテックと提携していて、現地で予報士からの情報を得たガイドの判断によってツアーを中止したってエピソードもあったりします。
この本の最も重要な役割は、これまであまり認知されていなかった低体温症についていろいろな側面から解説がなされている点でしょうか。
「夏でも低体温症によって死亡することがある」
「低体温症になると判断力が著しく低下してしまう」
「自覚がないままに発症する」
誰の責任とかそういう話はおいといて、この点を充分に認識することで大きな教訓を得ることができたかなと。
投稿: にゃみにゃみ。 | 2010年8月27日 (金) 07:33
今月の「山と渓谷」に掲載されている山森欣一さんによる同書の書評の中で提案されていた、『登山ではなく山岳旅行と呼称し……』という案。その是非はともかく、実質的に参加者はそういう意識……パックのツアー旅行に参加するかのような感覚を持っている、ということでしょうかね、生還者のコメントを読むと。
先日も少しつぶやきましたが、参加者はまずツアー会社やガイドを選ぶ目も養わねばなりません。しかし「プロだから」と盲目的に信じた結果がこれですから、始末に終えない。ところが、そういったところに目を向けさせる機会、例えば店舗、例えばメディアが、なかなかそういう役割を果たせていないのでは、と思います。色んな大人の事情があるのかもしれませんが……
それが出来ないなら、山森さんの案のように抜本的に区分してしまうしかないかもしれませんね。案外スマートに事が進むかもしれません。
投稿: みれい | 2010年8月26日 (木) 23:42