加藤文太郎『山の声』
六甲ケーブル山上駅・天覧台にある六甲ヒルトップギャラリーにて開催中『加藤文太郎』展の関連企画として、第16回OMS戯曲賞大賞を受賞した故・大竹野正典氏の遺作『山の声』の朗読会が行われた。
90年代前半に「これっきりハイテンションシアター(現・ファントマ)」で活躍した二人の俳優がこの日一日限りの俳優復活として演じたもので、『単独行』で知られる兵庫県出身の登山家・加藤文太郎を日活JOE氏が、加藤がその短い生涯を終えることになる冬の北鎌尾根でパートナーとして選んだ吉田登美久を山本忠氏が演じた。
新田次郎さんの小説『孤高の人』における描写は必ずしも史実に基づくものではないのだが、この作品においても、独自の解釈がなされている。
山にとり憑かれてしまった男たちの切なくやるせない山への渇望、不器用で人付き合いが下手な山男が、山でしか語れない心情・・を切々と綴った作品。力強く張りのある声で語られる関西弁特有のイントネーションが加藤文太郎という兵庫県生まれで神戸の登山家をリアルに感じさせていた。
始めのうちはユーモラスに、次第に錯乱しながら本質的な部分へと進んでいく。
なぜ山に登るのか。否、登らないではいられないのか。
なぜ単独行なのか。
なぜ他人がまだ登っていない困難な高みを目指さずにはいられないのか・・・
山上は冷え込むと言いながら、会場は暖房が行き届き、ぎっしりと埋め尽くす人いきれで暑いくらいだったのだが、正月の北鎌で遭難しかけている加藤文太郎が舞台の袖からフラフラと出てきて、ザックを置いて息をつき、凍った手袋をしごいて脱ぎ、その手でアルコールバーナーを取り出し、コッヘルに雪を詰め込んで火にかける、という冒頭の場面では、ぞわぞわとした冷気が足元から這い上がってきて、場の空気がヒヤリとしたのを確かに感じた。
視力が悪い私は、案内の方に勧められるままにたまたま空いていた一番前のかぶりつきで見ていたのだが・・・、
日活JOE氏の目に宿る輝きは、現身の芳樹氏ではなく、会ったことはないが文太郎その人に見えた。
芳樹氏は自身のブログの中で、
「闘うのだ。二度と立ち上がれぬほどに全力を尽くして闘うのだ。
すべてが終わったとき、二度と立ち上がれぬほどに。」
と書いておられたが、確かにその気迫を感じた。
終わった後、夜景がきれいだった。腰痛をおしてでも、きてよかったと思った。
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コメント
自分が山の世界に入ったきっかけは、いろいろ複合する理由があるのですが、その一つに「孤高の人」を読んでしまったから・・・というのもあります。
六甲山を歩いていると、いろんなところに文太郎さんの足跡が見える時があって、しみじみ原点に立ち返る様な気持ちになりますね。
投稿: HIRO | 2010年11月14日 (日) 23:49
じつは私も、「孤高の人」「銀嶺の人」にとても影響を受けた口なんですー。
特に加藤文太郎さんは兵庫県の出身ですし、
六甲山をホームに活動された方なので、
やっぱり特別ですねー。
投稿: にゃみにゃみ。 | 2010年11月15日 (月) 07:10