『TSUNAMI』
「――水平線いっぱいに広がる巨大な泡立つ白壁が、海上を滑ってくるのがくっきりと見えた。その水の壁は、砂浜に数十艘(そう)並んだボートを一瞬のうちに飲み込み、砂を巻き込みながら走ってくる――」
「海岸に沿った建物の半分以上が消え、残っている建物もどこかに被害を受けている。海岸線に沿って内陸の多くの場所がまだ水没している。日本の町とは信じられなかった。海岸線には、砂浜の代わりに瓦礫(がれき)の山が続いている。地震で破壊された住宅の残骸が津波で海に運ばれ、再び海岸に打ち上げられたのだ。あの中にはおそらく多数の――」・・・今回の東北地方太平洋沖地震の話ではない。
16年前に阪神淡路大震災を経験した作家・高嶋哲夫氏が2005年に書き上げた『TSUNAMI』の中の一節だ。
東海地震、東南海地震、南海地震が同時発生、巨大津波が日本を襲うというパニック小説だが、あまりのリアルさに寒気がした。
6年前にこの作品を書き上げた著者が、対談のために訪れた東北大学の教授は、「宮城県沖地震は30年以内の発生確率99%」と語ったという。 ※出典:ココ
「想定外」という言葉を頻繁に耳にするような気がするが・・・「想定したくなかった」だけなのではないかと思えて仕方がない。
『TSUNAMI』
高嶋哲夫 著
集英社 刊
2005年12月 初版発行
極にゃみ的に“響いた”箇所をいくつか抜粋。
アメリカの災害対応組織「FEMA」で一年間の研修を終え、米軍の原子力空母で帰国するという想定の陸上自衛隊員が、親しくなったアメリカ海軍のパイロットが家族に宛てて遺言を書いているところを目撃したシーン。
「俺はアメリカ海軍の兵士だ。死はすぐ側にある。覚悟だけはできている。お前は書いていないのか」
松浦は返事に詰まった。遺言書、海軍士官、死・・・・・・突然の言葉に驚いたのだ。
自衛隊で、死を間近に感じながら毎日を送っている者は何人いるだろうか。(略)
「国と国民を護ることは軍人としての使命だ。その基本的なことは、自分の家族を護ることだと信じている。それは軍人としての勤めであり、父親、夫としての義務だ」
いつも陽気で、多少無責任なダンとは思えなかった。松浦はダンの意外な面を見て、戸惑っていた。アメリカ人は時に思いがけない行為で日本人を驚かせる。
自分は軍人だ、と思ったことがあるのだろうか、不意に松浦の心に浮かんだ。銃を持った時間より、スコップを持っていたほうが多い気がする。戦車を動かすこともできるが、ブルドーザーとショベルカーの運転のほうが数倍うまい。(略)
「我々は国と家族を護るために軍隊に入った。だから当然敵と戦う」
「国と国家を護るという意味では同じだ。ただ俺の敵は人間というより、もっと他のものだ」
「それが地震か」
「地震もそうだ。しかし、FEMAに一年いて考えが変わった。自然と戦かおうなんて大それた考えは捨ててきた」
近未来に起こるとされている地震についての記載もいろいろとある。
東南海・南海地震が発生した場合、大阪の想定震度は5で、揺れそのものはたいしたことはないが、津波の被害が予想されているとか。
第1波が来るのが50分後、第2波はさらに50分後。時速36km、高さ2.5mで大阪湾から河川を逆流。地下街に流れ込んだら?
主人公のひとり、黒田という市の防災担当者が講演で語った内容。
〈地震は地球の息吹です。くしゃみをしたり、寝返りをうったりしているだけです。四六億年の地球の歴史の中で地殻の流動は大陸を動かし、海底を押し上げ、山脈を作りました。そして、その営みこそが生命を創造し、不毛の惑星を緑の大地に変えました。人間はそんな欠伸にも及ばない地球のきまぐれを気にするより、それに対応した生き方を考えるべきです〉
本書では、御前崎にある“大浜原発”で原子炉の冷却水が漏れてメルトダウンの危機に陥るという過程が描かれている。
「下手するとレベル7だ」とつぶやいた現場のトップは、自ら高濃度に汚染された原子炉建屋に単身で入り、命を懸けて炉心の熱暴走をくいとめる。
小説ならではの泣かせるストーリー展開だが、今フクシマでは現実に危険にさらされながら作業をしている方々がおられると思うと・・・
最後の方で、地震の研究者語るセリフ
「大都市直下型の巨大地震、広域に被害を与える海溝型巨大地震。起こってから慌てるのではなく、十分な準備で対抗したい。現在も確実に日本の地下の岩盤には歪エネルギーが溜まりつつあり、何かの拍子にそれが一気に解放されることは確実です。いつ来るかはわからなくても、来ることは確かなのです。来ることがわかっていて相変わらず多大の被害を出すということになれば、天災でありながらも人災の要素も含んできます。この地震の国に住むかぎりは、国ばかりでなく国民も十分に自覚して地震に対処しなければなりません」
少なくとも、地震や津波で制御不可能に陥る可能性のある原発は早急に止めてもらいたい。
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コメント
そのとおり!私も、あまりのリアルさに衝撃の本でした。
実は「TSUNAMI」「M8」を2月の入院中に読むつもりで買っていたけど読めなくて、
やっと先月「TSUNAMI」を読んだところでした。
読んでいるうちに、現実と小説の内容が混同しまいそうになりました。
(たまたま震災後に読んでしまったのが、良かったのか悪かったのか・・・)
でも、小説にできるくらい前もって予測できる事がこんなにもあったんですね。
何とかならなかったのか、残念でたまりません。
私がなんとも忘れられない表現が、津波の濁流をを例えた、洗濯機うんぬん…
怖いし、悲しいです。
投稿: だりあ | 2011年5月10日 (火) 23:10
リアルすぎて怖いですよね。
きっと「どうせ小説」って誰も現実にこんなことが起こる打なんて思わなかった…んですよね。
ホントに哀しい。。
投稿: にゃみにゃみ。 | 2011年5月11日 (水) 05:30