「食べるということ ~ 民族と食の文化~」
NHKラジオ(第二放送)の番組のテキストを読んでみた。
東京農業大学名誉教授で、醸造学や醗酵学の専門家。食に関する造詣が深い小泉武夫氏によるもの。1月8日から4月1日にかけての3ヶ月間の放送のテキストで、「食育の先に見えるもの」「心をつくる食事学」「食の遺伝子――日本型食文化の大切さ」「日本人の飲酒観」「地産地消の大切さと食料自給率」など、興味深い内容ばかり。
★『こころをよむ』「食べるということ ~ 民族と食の文化~」
放送は、日曜日の朝。再放送も日曜日の午後なので、どちらもたぶん聞けないと思うけど、テキストを読むだけでも充分面白い。
★食に命を懸ける会
福島県出身の著者にとって今回の震災は心に重いできごとだったと思うのだが、まえがきにこのように書いておられる。
自然災害は人間の力では防ぐことができません。しかし、起きてしまったことを、単に「自然現象」という一言で片付けてしまってはならないと私は思うのです。一日も早い復興を願うとともに、犠牲になった人たちへの追悼の意を込めて、日本人は今一度“原点”に戻って、日本民族というものを見つめ直す必要があるのではないでしょうか。
(中略)
私は食文化論者です。“食”という観点から戦後の日本を振り返ってみると、わずか五十年で食生活は激変しました。たとえば肉の消費量は四倍になり、油の消費量は五倍に増えました。本来、低タンパク、低脂肪、低カロリーだった日本人の食事は、高タンパク、高脂肪、高カロリーなものになってしまった。(中略)
現代の日本では生活習慣病が深刻化し、アレルギーやアトピーの子どもたちが増えています。さらに、キレる子どもや、鬱の広がりといった“心”の悩みが大きく取り上げられています。そういった、今の日本人が抱える問題と、戦後の食生活の激変とは、決して無関係ではないと私は感じています。
そして、日本人を直撃した未曾有の東日本大震災を機に、日本人は今こそ「日本人とは何なのか、日本人の生き方とは何か」といったことを再考し、私たちの足元を今一度見直して、原点に戻るべきではないでしょうか。そのような意味からも、今回の大震災を今日の日本人の生き方に対する警鐘でもあったのだと捉えることが、多くの犠牲者に対する供養のひとつになるのではないかと私は思うのです。
(中略)
食文化とは、民族が祖先から代々受け継ぎ、子どもたちに伝えていかなければならない知恵です。そして、日本には世界に誇れる独自の食文化があります。そんな民族の知恵である素晴らしい日本の食文化を通して、失われつつある「日本人らしさ」というものを、あらためて考えてみたいと思います。
| 固定リンク
コメント