『泥沼はどこだ』
“文学者だって政治・経済について語らなければならないときがある。支配の言葉のウソを読み解き、市民のたたかいの言葉に取り戻す術を明らかにする”というコトで、“支配の言葉のウソ”を読み解き、“市民のたたかいの言葉に取り戻す術を明らかにする”ための一冊。
国文学者の小森陽一さん(東京大学教授)と、詩人アーサー・ビナードさんによる対談をまとめたもので、2004年、2008年の「詩人会議」、2008年「ことばのレントゲン(朝日カルチャー)」など9編で言葉の問題、沖縄問題、防衛問題などに鋭く斬り込んでいる。
アーサー・ビナード氏はミシガン州出身のアメリカ人だが、そこらへんの日本人よりずっと日本語についての造詣が深い。
『泥沼はどこだ 言葉を疑い、言葉でたたかう』
小森 陽一、アーサー・ビナード 著
かもがわ出版 刊
2012年2月11日 初版発行
巻頭対談 「原子力テロ国家」から少々抜粋。
アーサー 「日本の資源エネルギー庁の“原子力・安全欺瞞院”の公式発表で、はじめはレベル4の事故だったのです。その“評価”が世界のブラックジョークになった頃に、しぶしぶレベル5に引き上げました。そしていっせい地方選挙を待って、今度はレベル7にしましたが、実態はレベル7ではなく、前人未到の、未曾有のレベル8でしょう。(中略)ぼくは日本を愛していて、日本を見捨てるつもりは全くないけれども、世界の善良な市民から見れば日本はテロ国家になってしまった。(略)」
小森 「原子力テロですね」
アーサー 「そう、核の海洋テロです。海に出たものは必ず生命に影響します。海に流したら大丈夫だと思っている人は、生物の歴史がわかっていない。(中略)
東京に踏みとどまるのなら、時間を無駄に過ごすことなく、行動しなければならない。福島の人たちのことを毎日心に浮かべて暮らす。死ぬ覚悟でここに踏みとどまる意味を、ぼくらは見出さなければならないのです」
小森 「太陽は原子力で燃えています。その太陽から地球が飛び出してきて、ちょうど地球の今の重さで釣りあってこの太陽からの微妙な距離で止まり、太陽の周りをまわることになりました。地球も最初は太陽から出てきましたから、放射性物質の火の玉だったわけです。それが何十億年という歴史をたどることによって、この地球の重力、つまり太陽から出てきたときの自分の重さによって、ウランより重い放射能を出す原子は淘汰されていったのです。まさに生き物としての地球の営みのなかで、放射性物質がなくなったから、海から生命が生まれる条件ができたわけです。
何億年前に地球自身が自らの命をかけて淘汰した放射性物質を人間が人工的に作り出したのが原子力で、その原子力の破壊力を地球上で実験したのが、ヒロシマ・ナガサキです。(略)」
アーサー・ビナード氏の講演タイトル「さいたさいたセシウムがさいた」が物議をかもしたのは記憶に新しいが、詩人のことばによると、
「本来なら花が咲いて楽しく迎える春を福島第一原発事故が台無しにしてしまった。それほど大変な状態であることをこの言葉で伝えたかった」そうである。
いろいろな意見があると思うが・・・本人の説明はこうだ。一読していただきたいコラム。
★みなまでいわなかった「さいたさいた」
ことばは、いろんな目的に使われる。あるときは為政者によって、民衆を一定の方向へ誘導するために。あるときは、利益を手にするためのイメージ作戦として。
「サイタ サイタ サクラ ガ サイタ」のあとに「ススメ ススメ ヘイタイ ススメ」と続くのだ。
コピーライターは商品を売るためのことばをひねり出すが、この詩人はことばの欺瞞を見抜いてそれを批判する。この詩人のことばには力があると思う。
言霊を言祝ぐものに幸いあれ。
さて、私も敬虔なる言霊の信者としてどんな仕事をするべきなのだろう。
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