« イベント中止でぐだぐだな日曜日。 | トップページ | 木之本宿と七本槍 »

『天命』

『林住期』に引き続いて読んでみた五木寛之さんのエッセイ。Tenmei平易な言葉づかいだけどなかなか難解、けれど示唆に富んだ内容だった。
あとがきに、「この本は、天命について考えた本ではない。いわば私の体験記である。ことばではあらわせないものをことばで語ろうとするもどかしさは、この文章のいたるところに見られるだろう。」と書かれているように、たしかにご苦労が伝わる作品だ。

『天命』
五木寛之 著
幻冬舎文庫 刊
2008年9月 初版発行

要約することはとてもできそうにもないので、例によって極にゃみ的に気になった部分を引用しておく。

 二十世紀までの人間の近代というものは、傲慢さというものがひとつの特徴だったと思います。
 自信と傲慢さ。科学に対する過信、技術に対する過信。そういうものを駆使する人間としての過信が傲慢さを生み、自力ですべてが解決できると考えました。

 宗教というものは、宗派が重要なのではない。宗教的感覚というもの、つまり。目に見えない世界も在るということ、ふたつの世界があるということが、世界にとってすごく大事なことだし、人間にとって大事なことのような気がするのです。
 昔、日本では「天罰がくだる」と、誰もが言いました。現実の世界では、悪業を重ねても、その人が力を持っていれば処刑されずにすむかもしれない。しかし、天はそれを許さない、という感覚です。
(中略)
 われわれはもう一ぺん、原点にもどって考えたほうがいいのではないか。
 目に見える世界、目に見えない世界、この世にはそのふたつの世界がある。そしてこれから先は、目に見えることば、目に見えないことば、その両方がわかるような人間でありたいと思うのです。


未曽有の大災害に見舞われ、原発がとんでもない事故を引き起こし、人間だけではなく地球規で深刻な汚染が広がっているいま、考えさせられることが非常に多かった。近代以降の“傲慢さ”がこの事態を招いたのだとしたら、本当にきちんと考えて見直さなければ・・


(P13)
 「死を想え(メメント・モリ)」というような教訓的なことばを引くまでもなく、人間はいやおうなく死に向かって一日一日歩いていく存在です。このことはわかりきった事柄であるにもかかわらず、日常生活のなかではほとんど実感がないものです。

(P139)
 他力、という考えかたは、まさに天命によって生きるという立場です。天命とは、天の命令ではない。自然に生きるというだけのことでもない。 天の法則にしたがう、というようなことでもない。
天命を生きる、という言いかたが、もっとも自然なように感じられます。
(中略)
運命ということばと、天命ということばは、 どこか大きく違うように感じます。
運命という考えかたは、どこか一方的な受け身の考えかたではないでしょうか。
天命とは、すすんでそれを肯定する。認めてそれに参加する感覚があります。それは、信じること、と言ってもいいかもしれません。
 五十歳をすぎたころから、私は天命ということを強く感じるようになってきました。
 それとともに、人間が何歳まで生きるのが自然なのだろうか、と考えることが多くなりました。現代の医学者は、人間が理想的な生活を守れば、百二十歳まで生きられる、といいます。
 しかし、たとえ科学的、生理的にそれが可能だとしても、はたしてそこまで生きることが天命にそぐうものだろうか。天が人間に与えた自然のいのちは、ひょっとしてその半分くらいなのではないか、と感じるのです。

(中略)

いま、私はこの「天命」ということばが、日いちにちと大きく、 そして強く自分のこころとからだにしみ通っていくのを感じています。そしてそのことを、なんともいえずうれしく、こころづよく感じているのです。

(P213)
 「山川草木悉有仏性」という仏教のことばがあります。山も川も草も木も、動物もけものも虫も、すべて仏性、つまり尊いものを持っている、生命を持っているんだ、という考え方えす。
 そうした考え方から出てくる環境意識とは、川にも命がある、海にも命がある、森にも命がある、人間にも命がある。だからともに命のあるもの同士として、片方が片方を搾取したり、片方が片方を酷使するというような関係は間違っているのではないか、もっと謙虚に向き合うべきではなかろうか、というものです。

あとがきから
(P230)
 幸せな生きかたを求めるならば、どうしても幸せな死にかたを探さなければならない。そのために大事なことは、常に「死」ということを考え、死のイメージと慣れ親しんでいる必要がある。死をいやなもの、恐ろしいものとして拒否するのではなく、誕生と同じように、ひとつの新しい旅のはじまりとして想像することが望ましいのだ。

|

« イベント中止でぐだぐだな日曜日。 | トップページ | 木之本宿と七本槍 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« イベント中止でぐだぐだな日曜日。 | トップページ | 木之本宿と七本槍 »