『食の終焉 グローバル経済がもたらしたもうひとつの危機』
なかなか集中して読む時間が取れないのだけど、なんとしても読みたかった一冊。松原隆一郎氏が、「今週の本棚」でこのように述べている。
経済のグローバル化は避けがたい時代の趨勢だが、野田政権はこれをTPP参加で乗り切ろうとしている。農業生産が大幅に縮小しても、製造業の輸出が伸びれば国として得策というのだ。
だが一時的に金銭的に潤ったとして、その先には何が待ち受けているのか。「食」に焦点を当てグローバル化の憂鬱な未来を描き出す本書は、多くのヒントを与えてくれる。
TPPは絶対に阻止しなければならない。農業をつぶしたら国の未来はない。自国が飢えているときに他国に食糧を提供するか!?当然しないだろう。敵に塩を送るのは、未来永劫称えられるほどの英断だ。今日本を取り囲む国が、有事に際してそんなことをしてくれるのか?
農業を工業的手法に置き換えようとしたのがそもそもの間違い。世界経済がどうであれ、自国の農業だけはなんとしても守らなければ。アメリカにしろ、フランスにしろ、食糧自給率は確保してのこと。その点に関して日本ほど悲惨な国はない。国防の基本は食の確保。断じてプルトニウムを保有することなどではない。
『食の終焉 グローバル経済がもたらしたもうひとつの危機』
ポール・ロバーツ 著
神保 哲生 訳・解説
ダイヤモンド社 刊
2012年3月8日 初版発行
★もはや破綻は不可避!?
今、われわれは何をすべきなのか。
『食の終焉』の著者ポール・ロバーツ氏に聞く、危機回避のシナリオ…ココ
例によって少し抜粋。
プロローグ から
P23
そもそも、食べ物はあまり大量生産に適していないため、大量生産を行うためには、収穫や加工がしやすくなるように、作物や家畜を品種改良しなければならなかった。品種改良だけではまだ不十分だったので、さらに、防腐剤や香料などを添加するようになった。現代の農業は、化学肥料の大量使用や低賃金労働力の不平等な扱い、カロリーの摂取過多など、表には出てこない様々な外部コストを生み、もはやこのシステムをいつまで維持できるか疑わしくなっている。また、調理の場が家庭から工場に移行したのも、私たちを家事から解放し、ほかのことができるようにした反面、私たちは自分たちが何を食べているのかわからなくなり食べ物を自ら選ぶこともできなくなってしまった。
第5章 誰が中国を養うのか
P236
一九八六年九月、百二十三カ国の貿易交渉者たちが、GATT(関税および貿易に関する一般協定)の枠組みの下で、より自由な食料貿易制度を作るために南米のウルグアイに集まったとき、当時の農務長官ジョン・ブロックは、食料の自給自足という概念は滅びたと宣言した。「開発途上国は自力で食べられるようにならなければならないという考えは、もはや過去の話であり、時代錯誤です。より安価なアメリカ産農産物に依存したほうが、彼らの食料安全保障はより確実になるでしょう」と語った。
この時のブロック長官の発言が、開発途上国側のメリットのみに向けられ、アメリカの投資家や原材料メーカー、機械メーカーなど自由貿易におけるもう一方の受益者について触れなかったことは、食料貿易のグローバル化に批判的な人々にとってさほど驚くことではなかった。ブロック自身が、後に農業機器メーカーのジョン・ディアに就職していることを見てもわかるように、自由貿易に疑義を呈する開発途上国と西側先進国の市民活動家や市民団体にとって、ワシントン・コンセンサスという言葉は、食料安全保障や開発途上国の債務返済とは無関係なものだった。彼らにとっては、グローバルな経済システムを、工業化された西側先進国に利益をもたらすような形に、根本的に再構築する作業を指していた。
この解釈では、世界の食システムを新自由主義的な方向へ向かわせる動機は、増え続ける人類を養うためでもなければ、食料輸出国にある大量の余剰農産物を売りさばくためでもない。それは障壁のないグローバルな物の流れに収益を依存する大規模多国籍食品企業のビジネス戦略のためのものだった。
(中略)
私たちは貿易を、それを行う国に住む人々に広く利益をもたらす、国家間の取引と勘違いしがちだが、今日の貿易は私企業間の取引として理解されるべきものだ。貿易はその取引が行われる国に利益をもたらす場合もあれば、もたらさない場合もある。
要は、食のグローバル産業化は、一部の多国籍巨大企業の利益にしかならないばかりか、搾取の対象となった国の食糧生産を根本から崩壊させ、依存せざるを得なくさせる恐ろしい仕組みということ。
そもそも、家畜であれ魚であれ、栽培される植物であれ、他の「いのち」をいただく「食」という行為に、工業的な効率や利益を求めることに無理があるのではないだろうか。
「誰も幸せにしないグローバリゼーション」(ジョセフ・スティグリッツ)という言葉をよく考えてみたい。
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