『山でクマに会う方法』
秋田県立鳥獣保護センター、秋田県生活環境部自然保護課での勤務を通じて、秋田の山でクマの生態調査に携わってきた筆者。クマを追いかけて27年、クマとの遭遇1000回以上という経験からクマに会いたいならどうすればいいのか=遭わずにすむためにはどうすればいいのか、をさまざまなエピソードと共に紹介した本。
クマと会うか会わないかを運任せにしない=自分もクマも守るために役立つ知識。
『山でクマに会う方法』
米田一彦(マイタカズヒコ)著
山と渓谷社 刊
2011.4初版発行
万一クマに会ってしまったら…
①あわてない
人の存在に気づけば基本的にはクマが逃げる。
②さわがない
うっかり接近してしまうと、身を守ろうとして威嚇に出ることもある。
③走って逃げない
クマには逃げるものを追う習性がある。
④抵抗しない
万が一襲ってきたら、いたずらに抵抗しない。
抵抗されるとクマはさらに逆上する。
最後の方のパートを少し抜粋してみる。
P180
クマを殺さずにすみ、被害もなくす方法はないものだろうか。そんなことを考えていると、役場から四頭目のクマを射殺するという連絡が入った。
檻の中のクマは雄だった。怒りをむき出しにしている雄グマの首にハンターはねらいをつけた。私は思わず顔をそむけ、手で目のあたりを覆った。衝撃音が走る。誰も口をきかない。
指の間から見ると、クマはまだ立っていた。首からおびただしい血がまるで滝のように噴出している。赤い奔流は彼の足を赤く染めながら流れ落ち、みるみるうちに地面に大きな血だまりをつくった。
クマはゆっくりと頭を下げ、おのれの血を弱々しくなめ始めた。
「ピチャ、ピチャ、ピチャ」
クマよ、おまえは失われつつある自分の命をもう一度その体内に引き戻そうというのか。それとも、人間がもたらした死を運命として飲み込もうというのか。
「ピチャ、ピチャ、ピチャ」
ついにクマは力つきた。前足をがくんと折り、自分の赤い血で清めた大地に吸い寄せられるかのように崩れ落ちた。横たわった体から、先刻まで力強く躍動していた大きな体から、命の輝きが失せていく。ふんわりと全身を包んでいた黒い毛が力なくしぼんでいった。
(中略)
クマ追いは彼になにもしてやれなかった。非力、という思いに私は打ちのめされていた。
(一九九一年一一月 広島県)
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