百万人の山と自然『安全のための知識と技術』公開講座
公益社団法人日本山岳ガイド協会主催の講座が実施された。
グランフロント大阪北館、ナレッジキャピタルカンファレンスルームにて。
会場へのアクセスがわかりにくく、館内遭難が続出するかと思われたが、ほぼ満席に近い状態に。
まずは鹿屋体育大学・山本正嘉教授のお話。
遭難事故が起こるたびに「無理をするな」と言われるが、「無理」とは具体的にどういうことなのか?事故を起こした本人は「無理をした」自覚はないかもしれないし、「日ごろから鍛えている」と思っているかもしれないが、実際には役に立っていないことが少なくない。
本格的な夏山シーズンまであと2か月、具体的にどういう訓練をすればいいのかを知ってほしい。
(前置きとして)
・登山は体にいい。中高年になってから登山を始めた人を対象に調査をしたところ、7割以上の人が「風邪をひきにくくなった」「疲れにくくなった」「精神的によい影響があった」と答えている。一方、膝や腰に故障が起こった人も一定数いる。
→上手くやれば健康維持や精神的にもよい効果が期待できる
(登山仕様のトレーニングを)
・登山に向けて「日ごろからトレーニングをしている」という人は少なくないが、「平地を歩く」「駅の階段を登る」という内容では実際の登山の役には立たない。
→平地を歩いても負荷が小さすぎる。階段は1フロアたかが5mほど。10階分登ったところで大したことはなく、健康増進の役には立っても山では役に立たない。
・山のトレーニングには山に登るのが一番だが、日常に行うなら、急坂を早い速度で登るのがよい
・目指す山の状況と自分の現状を確認する
①歩行時間 ②歩行距離 ③荷物の重さ ④登高量 ⑤運動高度 ⑥睡眠高度
その上で、それに見合った体力づくりを行う。
・筋力トレーニングを取り入れる
①ハーフスクワット ②カーフレイズ ③上体起こし(腹筋)
各10回×3setが最低ラインで、それがきついようなら遭難予備軍。
15回×3setがラクにこなせれば夏山では充分。週3回で効果が期待できる。
(事故防止と体力)
・北アルプスなどでは転倒による事故が多いが、脚力不足が原因のひとつ。筋力UPによって事故は減らせる。
・近郊の低山でも充分なトレーニングができる
たとえば…
★六甲タイムトライアル(関西山岳ガイド協会主催)
ロックガーデンから最高峰まで(水平距離6.3km、登り984m、下り114m)コースタイム3時間
Aランク:2:30以内…夏のバリエーション、雪山一般ルートでも問題なし
Bランク:3:00以内…夏の北アルプスでも問題なし
Cランク:3:30以内…低山ハイキングなら問題なし
それ以下:山に行く前に基礎体力をつけよう
※山での体力は年齢、性別はあまり関係がない。運動習慣のない20代よりずっと登山を続けている60代の方が強い。また、経験年数とも関係なく、年間の山行日数が重要。最低25回くらいは登ること。
(3000m級山岳は高所登山)
・1500m以上は「準高所」、2400m以上は「高所」。
高所では高山病の発症は目立って多く。心肺機能が弱い人などでは準高所でも高山病の症状が出ることもある。
・登高距離ではなく睡眠時の高度が重要。平地からいきなり高所に登って宿泊するのではなく、準高所で1泊してから登るとか、あらかじめ準高所で何度か身体を順応させておくと高山病予防に役立つ。
(山での疲労対策)
・エネルギーの枯渇…筋肉が動かなくなる、脳・神経の働きが低下、低体温症など
・水分不足…体温調整機能の低下、心臓機能への負荷、短期記憶障害や判断力低下など
遭難要因として多い道迷いももしかすると水分不足などが影響している可能性もある
★エネルギー消費量(kcal)&水分消費量(ml)=体重(kg)×行動時間(h)×5
つぎに、長野県警山岳遭難救助隊・岡田嘉彦副隊長が登壇。
大阪のご出身とのことで、ちょっぴり怪しい大阪弁も交えながら軽妙なトーク。実際の遭難救助現場での生々しいDVDで活動の内容をご紹介くださった。
・救助隊は「訓練で汗と涙を流し、現場では血を流さない」がモットー
・遭難防止のために必要なことは2点。①事前の準備②無理をしないこと
・計画をきちんと立てること。計画立案が登山の第一歩
・行方不明になって捜索するときのために計画書は提出または家族や仲間に託すこと
警察では、1か月間保管して廃棄。個人情報は守られている
・登山前のトレーニングと体調管理をしっかりと
・「行けるところまで行ってみる」では、引き返す余裕がない
・中高年や女性は比較的装備や服装がしっかりしているが、若い男性で無謀な人が目立つ
・長野県警では岩稜帯などでのヘルメット着用を推奨している。レンタルも試行するが、「一度試しにかぶってもらう」ことが目的。できれば自分にあったサイズや形のものを購入
・山ガールが率先してかぶってほしい
最後に、日本山岳ガイド協会・磯野剛太理事長。
・体力、計画、装備をしっかりと準備して臨むこと
・無理をしない。甘い想像で行動しないこと
・チャレンジングなことをしたいならプロガイドを活用
短時間ではあったが、夏山シーズンを前にして有意義なひと時だった。
今後の各地での予定は
●富山会場 6月13日(木) 国際会議場 3階メインホール 18:30~20:30
●福岡会場 6月19日(水) 都久志会館ホール(B1) 18:10~20:40
●東京会場 6月19日(水) 新宿区立四谷区民ホール 18:30~20:30
●名古屋会場 6月29日(土) ウィンクあいち8階展示場 案内1 案内2
名古屋会場は、「第1回夏山フェスタ」の中で開催
●松本会場 7月 1日(月) Mウィング 松本中央公民館 18:30~20:30
| 固定リンク
コメント
運営ありがとうございました。
お三方とも素晴らしい内容でした。DVDがひときわ印象深いです。去年は富山県警さんのを視聴させていただきました。
昨日のDVDのナレータは三歩こと小栗旬さん?とか一瞬思いましたが、ちょっと映像古そうでしたし、違いますよね。
投稿: カモ鳥 | 2013年6月12日 (水) 10:12
有意義な内容でしたねー。
そしてあのリアルな映像…
“現実”を目に焼き付けて、事故のない楽しい山行をしたいですね。
投稿: にゃみにゃみ。 | 2013年6月12日 (水) 21:09