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『ここに神戸がある』Ⅲ 六甲山

『ここに神戸がある』連載4回目が「六甲山」。編集者の五十嵐氏がDsc01866案内役の数名と共にクルマで六甲山を訪れたときの写真が添えられている。トヨタ自動車の広告に転用されたものなのかもしれない。
エッセイの冒頭で、ご自身の山の経験について触れておられる。

少々抜粋すると…

 私は低山趣味で、十三才のときに大峰山にのぼっていらい、近畿地方の名ある低山は、ほとんどのぼった。
「これでも登山家だよ」
 と人に自慢をする。ただし、日本アルプスは、のぼったこともないし、のぼろうとおもったこともない。絵ハガキをみるのも、きらいである。
 そういう低山登山家が、中学四年の正月に六甲で遭難しかけた。拝賀式をおえると、急に低山にのぼりたくなり、級友四人をさそって、その足で六甲山へ出かけた。


何の準備もなく思いつきで登った中学生たちは、あてにしていた山上の茶屋が開いていなかったこともあって空腹で歩けなくなり、近道をしようとして遭難寸前に。結局彼らは沢沿いに下るのだが、

 川はかならずふもとへ流れている。川の流域に人家が密集するのは、人文地理学の通念である。われわれは、川をつたっておもわぬ町に出た。宝塚市だった。

「道に迷ったら沢を下ってはいけない」というのが“山の常識”的に語られることが多いが、欧米では司馬氏が書いたとおりの理由で川に沿って下れと書いてある本もあると聞く。
日本の場合は地形が急峻で、滝に出合って行き詰る可能性が高いという理由で「沢を下るな」と言われているが、地形にもよるので一概にそれが正しいというわけではないのだ。
しかし、「山頂」はたぶん最高峰のことで、開いていなかった茶屋はたぶん一軒茶屋だ。とすると、宝塚まで、よく空腹のままで頑張ったものだ。水無山を越え、大平山の手前あたりから逆瀬川の源流にでも下ったのだろうか。

ところで、上記のエピソードに続いて、編集者・案内者と共に取材に行った話が語られるのだが、その部分にはちょっとクレームをつけたい(笑)。

若林さんは、関学と神戸大学とで日本史を専攻したひとで、六甲史にもあかるい。
「六甲は、明治になってから外人がひらいたというほかは歴史がないんです」
「そこが六甲のいいところですよ」
 と私はいった。
 もともと、日本の名山というのは、ほとんど僧侶がひらいた。
ただしくいえば、修験者(しゅげんじゃ)がひらいた。
 役(えん)ノ行者という山好きの超人が千四百年ほど前に出て、生涯山あるきをした。かれがひらいた著名な山は、富士山、御岳、大峰山、葛城山をはじめ、全国に数かぎりもなく、それらがすべて修験の道場になっている。
 六甲山は、そうではない。
 外人が、避暑のためにひらいた山である。
 この山には日本の山にありがちな求道性もなく、哲学もない。哲学のはんらんする日本の自然のなかでは、めずらしい例である。
 のぼる者に押しつけてくるそういう「観念」はなくて、この山では、あかるい緑の空気のなかで、若い人が安心して恋を語ることができる。中年の男は、仕事をわすれてクラブをふることができる。
 神戸が、世界の都市のなかでも、都市生活の条件がもっともすぐれているといわれていることの一つに、この六甲山の存在がある。

 ※

「哲学のない山で、わるうおましたな」
 と、五十嵐さんがいった。この「神戸っ子」の編集者は、わるくちを言われたと思って、はらがたったらしい。
「ないから六甲山はええのや」
 高山趣味がいま日本を風ビしていて、かれらは山へのぼるだけでなく、ヘリクツをつけながらのぼる。
 山に哲学をくっつけるところは、大和の大峰山や木曽のオンタケサンにのぼる白衣の行者とかわらない。別にわるいことではないがそういう哲学山のはんらんのなかで、
「喫茶店に行くかわりに六甲山に行こ」
 というこの山の存在は、ありがたい。喫茶店山である証拠に、この山の道をのぼってゆくハイカーやドライバーは、どの顔も天真らんまんにゆるんでいる。
 日本人は、緊張(テンション)民族だという。金剛杖をついて大峰山にのぼる行者や、ザイルをもって槍ヶ岳にのぼる若人には、共通した一種の精神的緊張がある。その緊張は、山を偶像とみているところからくる。六甲という山は、人間を遊ばせてくれる日本で唯一の山である。


引用部の前半、「外人がひらいたというほかは歴史がない」というくだりは、まったくの誤解である。まぁ案内者にそう教わったわけだから、司馬氏の責任ではないのだが。
が、後半の「喫茶店山」説には大いに賛同する。じっさいそんな感じのカジュアルなムードが魅力のひとつだと思っている。
古代からの山岳信仰も、修験道も山岳仏教も、六甲山にはいろいろあって奥が深いのだけど…

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