住ムフムセッション〈第7回〉 橘真氏/江弘毅氏×研究員
“名門レストランのソムリエから淡路島の農家へ。その道で考えたこと。”
グランフロント大阪北館「住ムフムラボ」にて開催されたトークイベント。
神戸のフレンチの名店「シャンテ クレール」「ジャン ムーラン」のソムリエを経て、北野ROSE GARDENにあったワインバー「ジャック メイヨール」の店主だった橘真氏が、都会生活を捨てて淡路島で農業を始めたのが2009年。それまでの人脈もあるとはいえ、一流レストランから高い評価を受ける野菜を作り、鶏やミツバチを飼い、さらにワイン作りをも目指す、パワフルなその生きざまを語る…
※住ムフムラボ内は原則として撮影禁止ですが、主催者から当イベントに限り撮影可との説明あり
写真中:橘真氏、右:江弘毅氏(編集者)、左:ラボ研究員中村氏
今の農業は、アメリカ式の効率優先なスタイル=コングロマリットな産業となってしまっているが、一流レストランのシェフなどは、一般消費者向けに作られている肥料で大きくした野菜とは違う、野菜本来の味がするものを求めている。
F1種で肥料をたっぷり与えて育てる一般的な農法では、殺虫・殺菌のための薬剤もマスト。だが、そもそも“野菜”のルーツは野草で、“食肉”のルーツは野生動物。それらは、手をかけずとも育ち、お金を出さなくても“タダで”手に入るものだった。
自然農法で野菜を育てれば、不揃いで小さいものしか収穫できないけれど、肥料代や農薬代は“タダ”だし、何より美味しいものができる。
「プロの料理人が求める野菜を作れば売れる」と思って始めた農業は、結果的にうまくいっているそうだ。
淡路島の農家では、米と、その裏作に玉ねぎ、キャベツ、レタスを作っていて、それ以外のものを栽培しても販路がない。けれど、橘氏は京阪神の飲食業界につながりがあるので、アーティーチョークやフェンネルなどを作って、一番美味しい時期をしっかりと見極めて、電話で注文を取ってレストランなどに配送している。
居住している集落は広大な面積に約70軒。ふだん農作業をしていると誰にも会わない。住民は高齢者ばかりで、専業農家で食べていける家は一軒もなく、後継者がいる家もない。消防団や祭礼などの地域社会の義務を果たし、地域に受け入れられる努力はきちんとしているとか。いわゆる“田舎”特有の濃密なコミュニケーションがあるが、それは神戸の下町育ちにはさほど違和感はないとか。まぁ元接客業の方だし、コミュニケーションスキルは高いのだろうけれど。
もちろん、軽妙なトークの中には出てこない苦労はいっぱいあるだろうし、橘氏の場合は特殊なネットワークがあるから成り立つレアケースではあるだろう。とはいえ、希望が感じられるお話だった。
『里山資本主義』を読んで以来、生き方を変えられたらと半ば本気で考え始めている。専業農家に転身しようとは思ってないし、完全自給自足ができるとも思っていないけど、少しずつでも、“地に足のついた”暮らし=化石資源の消費を少しでも減らすとか、工業製品的な食品ではないものをセレクトするとか、、にシフトしていけたらな、と思っている今日この頃。
できれば都市を離れ、飲める水が湧いているところへ移住したいのだけど…。
現実的には一人では厳しいだろうし、価値観やライフスタイルを共有できる仲間を作ることが第一歩かもしれない。
グランフロント大阪は、商業施設としてはあまり興味はないのだが、いろいろな情報発信の基地としては面白い。好日山荘内の「マウントラボ」も、大阪ガス・都市魅力研究室で行われているラジオドラマ&朗読劇シリーズ「イストワール」(朗読劇『山の声』)もある。
橘真(たちばな・まこと)氏
1965年生れ、神戸市出身。神戸のフランス料理店「シャンテ クレール」「ジャン ムーラン」のソムリエを経てワインバー「ジャック メイヨール」元店主。1999年シニアソムリエ認定。フランス、イタリアのワイン、野菜、生産地を視察研修の後、ワイン輸入卸業務店を経て2009年淡路島に移住、倭文(しとおり)土井谷にて料理店用の野菜を生産する農家。
★参考サイト:
南あわじのおもろい”ひとびと”Vol.5 農家 橘 真さん(倭文地区)
ウチダ先生のコラム
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コメント
いろいろ早めに考えたいですよね。
いろんな人とそんな話ができるといいなーと思います。
協働もできるかもしれないし。
また一献傾けながらでも…
投稿: にゃみ。 | 2014年1月31日 (金) 20:49
Hもリタイア後にどう過ごすのか、色々考えているけど。。。
できれば県北の山の近く、あるいは裏丹生山系の近く、などなど色々思案しているけど実行できる決断があるかどうかです。
槇さんて凄いですね。淡路島で仕事していたので、倭文は「ひとおり」、榎列は「えなみ」と読みます。淡路島は難しい地区名が多いですね。
投稿: カメさんH | 2014年1月31日 (金) 20:46