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『わたしたちの体は寄生虫を欲している』

久しぶりにとっても面白い本と出会った。めちゃくちゃ面白い。
Kiseichu
《訳者あとがき》 より

本書の内容は幅広く、さまざまな角度からわたしたち人間が自然との相互作用によって進化してきたこと、そして自然と切り離されたことがどんな影響を及ぼしているかを、述べていきます。― 腸内細菌のはたらきと、その避難場所である虫垂の役目、ウシの家畜化と人間はおとなになっても牛乳が飲めること、恐怖心の源、体毛がなくなった理由、疫病と外人恐怖症等々…。
 こうして一部を挙げただけで、「わたしたちがどっぷりつかっていた自然が身の回りからすっかり消えた」ことがいかに「不自然」であるかという、当たり前のことに気づかされます。自然と切り離されたことのマイナスの影響は、自己免疫疾患に留まらず、自閉症、不安障害、歯やあごや視力の障害、心疾患にも及ぼうとしている、と著者。では、(寄生虫の卵を飲むかどうかはべつとして)わたしたちはどうすればいいのでしょう。本書にはそのヒントもたくさん紹介されています。

『わたしたちの体は寄生虫を欲している』
ロブ・ダン 著
野中香方子 訳 瀬名秀明 序文
飛鳥新社 刊
2013年8月 初版発行

★極にゃみ的抜粋…

P12
 わたしたちは今の生活を快適に感じている。明るい電灯、清潔なテーブル、おいしい食事、エアコン― 少なくとも脳は、この環境を気に入っている。しかし、体のほうは、何千年にもわたって共存してきた数々の種との遭遇を、今でも期待しているようだ。中には、遠ざけることができてよかった種もある。たとえば、天然痘ウィルスを懐かしむ人はいないだろう。
 しかし、他の種と別れたことは、往々にして人間にマイナスの影響を及ぼしている。近年、新たな病気が私たちを苦しめるようになった。鎌状赤血球貧血、糖尿病、自閉症、アレルギー、不安障害、自己免疫病、妊娠高血圧腎症、歯や顎や視力の障害、それに心疾患も、より一般的になってきている。そして、これらの病気が増えたのは、公害やグローバリゼーション、あるいは医療システムの欠陥のせいではなく、人間と他の種とのつながりが変化してきたせいだということが、徐々に明らかになってきた。
 しかもそれは、特定の種が消えたためではなく、人間が人間以外のすべての種― 寄生虫、細菌、野生の木の実、果実、捕食者など― を生活から排除してきた結果なのだ。多くの人は、腸内から寄生虫がいなくなったせいで、むしろ健康を害している。同様に、周囲から捕食者が消えたせいで、それらに警戒するように進化してきた人間の心は、バランスを失いつつある。脳は私たちに、邪魔者を生活圏から追い出せ、と命令するが、消化器官から免疫システムに至る体の他の部分は、それではいささか具合が悪いと感じ始めているようだ。
 人類と自然とのつながりが切れたことについてさまざまな研究がなされている。分野も方向性もそれぞれ異なるものの、どれも似通った結論に至っている。ある免疫学者は腸に注目し、寄生虫がいなくなった影響を調べている。ある進化生物学者は、虫垂の働きを明かそうとしている。ある霊長類学者は、人間の脳のニューロンに残された捕食者の痕跡を探している。ある心理学者は、対人恐怖症や戦争の背景に、病原菌への恐れがあることを証明しようとしている。彼らはそれぞれ自分は重大な発見をしたと考えており、確かにその通りなのだ。本書では、彼らが明らかにした物語をひとつにまとめ、人間の体がいかに遠い過去を懐かしんでいるかを語っていきたい。

(中略)
 二十世紀において人類は、有害なただひとつの細菌を腸内から排除するために、抗生物質ですべての細菌を殺した。また、野原にいる二、三種の害虫を駆除するために、すべての昆虫を殺した。どこかにいるヒツジを守るために、国中のオオカミを殺した。細菌を除去するために、テーブル全体を、洗剤でごしごしと洗い清めた。このような行動は、膨大な数の人間や家畜の命を救ったが、新たにより深刻な問題を引き起こし、自然からその豊かさをはぎ取ってしまった。
 多くのことを学んだ今、わたしたちは、より自然で健全な生活を築くために、もっと賢く行動することができる。「清い暮らし」が引き起こした問題は、泥遊びをすれば解決するわけではない。わたしたちに与えられた課題は、周りに新たな種類の生物界をつくることだ。それは、森林伐採や、抗生物質などを生き残った強い種だけからなる生物界ではなく、知性に裏付けられた多様性に富む生物界であり、私たちはそこに生きる生物たちとさまざまな形で関わっていくのである。
 さあ、暮らしに野性の力を取り戻そう。

(以下、雑すぎる要約)

・人類はもともと「寄生虫」とは共生関係にあった
寄生虫が人間の免疫システムを機能させるという面があり、寄生虫を排除してからクローン病などの自己免疫疾患が増えた

・人類は「無菌」では生きていけない
人間は多くの細菌と共生しており、過剰な除菌・殺菌が却って人の健康を損なっている

・「虫垂」はムダな臓器ではない。必要な共生菌のバックアップ庫であり、コレラのような病原菌が侵入して腸内の良性菌が死滅したとき、虫垂の中で生き延びた菌が再び腸内で数を増やし、元の均衡状態に戻す

・ウシと人間は長い時間をかけて共生関係を築いた。乳牛の祖先であるオーロックス(Bos primigenius)を「ドメスティケーション」し(飼い慣らす)、ゾウに近いほどの大きさがあったオーロックスは人に慣れるに従がって次第に小型化・従順化の遺伝子が拡散したが、人間も同様に乳児期を過ぎてもラクターゼ(ラクトース=乳糖を分解する酵素)の分泌が続くようになった

・ちょっと前(?)まで人類は大型肉食獣の捕食者であった。そのため、ホルモン、血液、副腎、脳が協働する「恐怖モジュール」が備わっている。副腎がアドレナリンを出し、アドレナリンが別の化学物質の分泌を促し、心臓の鼓動を早め、血流を増して毛細気管が広がって呼吸量も増える。
恐怖モジュールを調整するのは偏桃体だが、家畜化された動物や遺伝子組み換えの魚などはおしなべて恐怖に対する感受性が低い。

・ヘビはしばしば人類の祖先を咬んだため、人は藪の中でじっとしているヘビを見つけるために視力を向上させ、ヘビを見ると恐れるという性質を獲得した

・「味蕾」が脳に味を感じさせるのは、食物の取捨選択のためだが、遮蔽弁を備えることなく進化した。
そのため、甘みや旨みを嗜好し、塩味のものを食べると止まらなくなる(ポテチがやめられないのはこのため)

・人類が毛皮を脱いだ(体毛を失った)のはシラミやノミなどから逃れるためだった

・文化は病気によってつくられた。クセノフォビア(よそ者恐怖症)は病原菌を遠ざける。

・除草剤や農薬が生態系のバランスを崩し、「結果的にさらに悪い状況」を作り出している
人体に使われる「抗生剤」なども同様

《結論》
獲物を見つけるために「目」を作り出し、食べられるものと有毒なものを見分けるために「味蕾」を持ち、細菌に対応するために免疫システムを獲得した。我々の体はすべて他の生物と関わって成り立っている。
 =体の中にも外にも、豊かで有用な自然を保つ必要がある

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コメント

寄生虫関係の本好きです。
世界を駆け巡る生活史、多様な成長と生活と宿主との関係などなど、ちょっと怖くなる時もあるけれど寄生虫の奥深さに興味ひかれます。

投稿: dragonfly | 2014年5月 4日 (日) 21:14

藤田先生の本も面白いので好きなのですが、
この本はもー、超絶に面白かったです。

人間ごときが、恐ろしく豊潤で多様な生態系を支配しようだなんておこがましい。

数限りないいろんな生物が複雑に絡み合いつつ、お互いに生きているのだってことがよくわかりました。

投稿: にゃみ。 | 2014年5月 4日 (日) 21:49

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