『タネが危ない』
“農”に関心を持ち始めて数年になるが、コレは本当に読んでよかった、と思えた一冊。在来種・固定種、全国各地の伝統野菜のタネを扱う種苗店「野口種苗」の三代目である著者が、いまたいへんなことになりかけている農作物のタネについて解説。
プロ農家はもとより、家庭菜園の領域まで「F1種」が席巻しているが、それが意味することはいったい何なのか…。
F1種=子孫を残せないミトコンドリア異常の植物。本当にそんなものを食べ続けていいのか?「食の安全性」のみの問題ではなく、生態系や、人類の将来にも関わる重要な問題が潜在している。
農に関心がなくても、一読する価値がある良書。
全力でお勧め!の一冊です。
『タネが危ない』
野口 勲 著
日本経済新聞出版社 刊
2011年9月 初版発行
野菜や花のタネには、「在来種」「固定種」「F1」「GM」の4種類がある。
在来種は、もともと作られてきた品種で、農家が自家採種しているもの。
固定種は、種屋が品種の形質を固定したもの。
F1は「一代雑種(優性が一代限り出現する種)」。
GMは「遺伝子組み換え」種。
「固定種」は、一般に味がよく、その地域にあった性質を持つため、多様性・環境適応力があって、長期にわたって収穫できるという利点がある。
これに対して、F1種は、「雑種強勢」により、成育が早く、特定の病害に対して抵抗性があり、形質の揃った作物が同時期に収獲できる。
このため、商業的な作物としてはF1のメリットが大きく、現在はほとんどの農家でF1種が導入されている。
F1のタネを作るためには、自家受粉させないようにしなければならないため、現在では「雄性不稔」というミトコンドリア異常の株を使う。受粉にはミツバチを利用するが…。
ミツバチという昆虫は100万年以上前に進化が終わっており、変化していないそうだが、1960年代に一度小規模で、2006年と2007年には、全米で240万群もの巣箱から3割以上のハチが消えてしまうという現象が起きた。(蜂群崩壊症候群=CCD)
また、2009年には、ヨーロッパでミツバチの女王の産卵数が激減。
ミツバチの大量死に関して、日本ではネオニコチノイドという農薬によるものという説が一般的だが、その場合は農薬に触れたミツバチが巣に帰る途中や巣の回りで落ちて死ぬが、CCDの場合はハチが“いなくなってしまう”。しかも、1960年代にはネオニコチノイドはまだ発明されていなかった。
1940年代から、優勢不稔植物にミツバチを使って受粉するF1種子作りが広まった。20年の継代を経て、ハチに異常が出てきたのではないか?というのが著者の仮説。
もちろん因果関係は証明されていないが、「ミトコンドリア異常」という、生命エネルギーに欠損があって子孫を残せない異常な植物を食べ続けると、人間には異常は出ないのだろうか。人類の生殖能力の低下は著しいものがあるが…
それはさておき、
・生育が早く
・一定のサイズの野菜が一時に収獲できる
という、F1種のメリットは、商業農家はともかく、家庭菜園には全く必要ない。
だらだらばらけて採れた方がありがたいし、箱に詰めて出荷するわけじゃないから、大きさや形が揃ってる必要なんてない。
それより、美味しい方がいいし(一般に在来種や固定種の方が味がいい)、地域に合った伝統的な品種の方が(たぶん)素人には作りやすい。第一、遺伝子異常の気味の悪いものを食べるより、ナチュラルな自然の恵みの方がやっぱりいいような気がする。
というわけで、F1種は今後もチョイスしません。
【参考になるサイト】
★山崎淑子の「生き抜く」ジャーナル!
「『タネが危ない』…危なすぎます」
【本の中で紹介されているエピソード】
・固定種時代の「日本ほうれん草」は、9月彼岸頃に種を蒔いて、成育に3か月ほどかかるが、根が赤くて甘く、生食できるほどアクがすくない。美味だが葉が薄く、ボリュームがなくて収獲しにくい。これに対して、西洋ほうれん草と東洋種のF1は、春や夏にも蒔くことができて、分厚い葉っぱは立っているので収獲もしやすく、わずか1か月で出荷できるほど成長が早い。
が、成育期間が短い分、細胞の密度が粗くて大味、ビタミンCなどの栄養素も在来種の1/5~1/10ほどしかないそう。
ほうれん草は、育てやすい秋から冬に、固定種の「日本」「豊葉」「次郎丸」などを育成し、気温の高い時期は「空芯菜」「ツルムラサキ」「モロヘイヤ」など高温に強いものを作ればよい。
・「F1は病気に強い」というのは、特定の病害に対してのみ。単純な遺伝子しか持っていないので、遺伝子的に多様性がなく、地域で変異を重ねた固定種の方が気候風土に順応して強い傾向にある。初年度はダメでも、採種して翌年も育てれば、次第にその場所に適応した性質を獲得していく。
やっぱり、“自然”はすごい。
人間の浅知恵でそれをないがしろにすると、そのうちたいへんなことになると思う。
F1もGMもいらない。農業のグローバル化なんかしなくていい。
大量生産や効率化=利益、のために生命をもてあそんではいけない。
自然の精妙さを尊重しながら、自然の一部としての自覚を持って、謙虚な生き方をしなければ。
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