『沈みゆく大国 アメリカ』
まえがきより「九・一一のテロ以降、かつて憧れたアメリカの変貌ぶりに、私は失望されられっぱなしだった。自由の国。誰にでもチャンスが与えられる夢の国アメリカは、いまやすべてをマネーゲームの商品にしながら、世界規模で暴走中だ。」
著者の堤未果さんが『(株)貧困大国アメリカ 』で書いたとおり、市場原理が介入すべきではない領域、福祉や教育、公共サービスなどの“聖域”を、莫大な資本力と“回転ドア (revolving door) ”を行き来する優秀なロビイストを駆使して、大きな利潤を上げる“マーケット”に変えてきた恐るべき流れが、次にターゲットとしたのは「医療」。
とてつもなく衝撃的な一冊。アメリカで起きている恐ろしい事態をリアルにレポートしている一冊。ぜひ、一人でも多くの人に読んで欲しい一冊。
わが国では“あって当然”と認識されている「国民皆保険制度」が、資本家の手に売り渡されたらいったいどうなるのか。
庶民は病気や怪我をしても医療を受けることができない、あるいは受けたらその支払いで破産するしかないという恐ろしい事態が…(嘘だと思った方はご一読を)。
『沈みゆく大国 アメリカ』
堤未果 著
集英社 刊(集英社新書)
2014年11月19日 初版一刷発行
★集英社 『沈みゆく大国 アメリカ』特設サイト…ココ!
低所得者や障害者、高齢者、そして病気や怪我に苦しむ弱者にとって朗報となるはずだったアメリカ版国民皆保険制度“オバマケア”がもたらしたものとは、「ある日突然医療保険料が2倍になって従来の内容では保険料が払えなくなり、補償範囲の狭いものに切り替えざるを得なくなる」「医療費が支払えず自己破産」「がんを発症、画期的な治療薬が開発されているにも関わらず高額すぎて買えず、保険で賄えるのは安楽死薬だけ」という悪夢のような現実だった・・。
米国の医療費は総額2.8兆ドル(200兆円)。 製薬会社と保険会社、そしてウォール街が結託する「医産複合体」はオバマケアのからくりによって巨万の富を得る仕組みを手に入れたが、次なるマーケットとして狙っているのは「日本」。
TPPはその布石のひとつ。そして2013年12月に、多くの良識ある人々が猛反対する中、とんでもない強行採決で無理やり通した「特定秘密保護法」の陰でこっそり進められていた「国家戦略特区法」。この法律は、80年代以降すさまじい勢いで国家が解体されてグローバル企業の思うままに動かされているアメリカと同じ道を辿る第一歩となる法律だ。
「規制緩和」がもたらすものは、個人経営や中小企業が保っていたささやかな市場をグローバル企業に贄として差し出すことにほかならない。
新潟における「大規模農業」は地域固有の農業や食文化を失うことにならないか?
福岡の「雇用の自由化」はさらなる労働者の搾取につながらないか?
東京・大阪での「学校や病院の株式会社経営、医療の自由化、混合診療解禁など総合規制撤廃」は、アメリカで教育が崩壊し、医療が崩壊していった、あの悲惨な事象の後追いとなるのではないか?
そんな悪夢のような社会にならないようにするために、我々国民は「知ること」から始めなければならない。「オバマケアは中流消滅への最後のトドメ」だったそうだ。
アメリカ国民の大半は「オバマケア」の内容を知らないままに、気づいたら「医療がビジネス」に化けていて、その恩恵にはあずかれない事態となっていたという。そして、最多層だった中流の人々が次々に没落して、貧困層に落ち込んでいる。
実例として挙げられているケースを少し紹介してみる。
■オバマケア保険に加入しながらも、治療を受けられず医師の目の前で死亡
補助金を受けてオバマケア保険に加入できたシングルマザー。3つの仕事を掛け持ちしてようやく暮らしていたが、ある日ひどい腹痛を起こして医師に相談。ところが、オバマケアを扱っている病院は限られているため、ようやく手にすることができた保険証を握りしめたまま、医師の目の前で息絶えた。
■医療知識皆無のコールセンター担当者に薬品処方の許可を取らないといけない医師
オバマケア保険を適用して医療を行う場合、薬の処方ひとつにも保険会社の許可が必要で、コールセンターにいる医療のイの字も知らないようなオペレータ相手に医師は交渉をしなければならない。オペレータにはノルマがあって、申請の内4件に1件は却下しなければならない仕組みのため、医師は不毛なやりとりをする羽目に。患者側からはなぜちゃんと説明してくれないのかと恨まれ、板挟みで苦しむ。
■外科医なのにワーキングプア
フロリダ州在住の外科医は「医師が裕福な勝ち組だというのはもはや都市伝説」と語る。
年収は20万ドル(約2000万円)だが、17万5000ドルの「訴訟保険料」を払っているため、手取りはたったの2万5000ドル(250万円)。ひっきりなしに訪れる患者を診るだけでなく、保険制度のために膨大な事務処理作業が課せられ、休む暇もないとか。
第3章の最後の部分から少し抜粋。
P180
次々に実施される規制緩和政策と、赤字が増えてもおかまいなく次々に紙幣を刷る政府のおかげで、一パーセントの金融資産は今後も増え続けていくだろう。国家解体ゲームはますます盛りあがり、一つ終われば次のステージが用意される。税金でフードスタンプを国中にばらまくことで、「加工食品とファストフード」「チェーンの安売りスーパー」「ウォール街」の三大業界のふところに福祉予算が流れていく。そうしたしくみをつくったオバマ大統領の貧困ビジネスモデルは、公営化の下で民間に公的予算を流すという、実に無駄のない手法として、ウォール街と業界トップから高く評価されたのだった。
そして次にやってきたのが、アメリカ国内でもっとも政治に影響力を持つ業界の一つ、「医産複合体」だ。フードスタンプ拡大の時の「貧困層救済」という美しいスローガンが、早速新しい「無保険者にヘルスケアを!」に書きかえられ、新たなゲームが始まった。
ちなみに、「フードスタンプ」は、安売りチェーンのスーパーマーケットとファストフード業界と大手食品会社に莫大な利益をもたらしただけでなく、栄養バランスが悪く、カロリーが高いだけの加工食品ばかりを口にするために、生活習慣病にかかり、医療費を支払わざるを得ない状況を作り出して、貧困層を二重に搾取している。
教育・食文化・医療は、マーケットとして資本家の餌食にしてはならない。これらをグローバリズムに売り渡してしまったら、「国家」なんて存在意味がないではないか。
けれど、“国家解体”へ向かわせる政権に力を与えているのは、選挙権のある我々国民であるとも言える。この度の選挙では本当に、この国の凋落を停めなければ。
「知ること」、まずはそこから。
★同じ著者の本
『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』
『(株)貧困大国アメリカ 』
『政府は必ず嘘をつく』
『社会の真実の見つけかた』
『もうひとつの核なき世界 真のCHANGEは日本が起こす』
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