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『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』

自家製天然酵母と国産小麦にこだわった人気のパン屋さん、「タルマーリー」のKusarukeizai店主が書いた、パン職人の目から見た“食”と“経済”にまつわるあれやこれや。
“イケてない”フリーター時代を経て、有機農産物の卸会社に就職したものの、食品業界のブラックな裏側を目の当たりにし、気力も体力も尽き果てていたある日、会ったこともない祖父が夢枕に立ち「おまえはパンをやりなさい」と告げた…。
お告げに従って会社を辞め(なんて素直!)4年半の修業ののち、2008年に千葉県南房総の古民家でパン屋を開業。ところが2011年の原発事故…。
まだ幼い二人の子供を放射能から守るため、西日本へ移転することを決意し、パン作りに適した地を求めて岡山県の勝山へ。

『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』
渡邉格 著
講談社 刊
ミシマ社 編集協力
2013年9月 初版発行

マルクスが指摘する、資本主義経済の矛盾のひとつは「生産手段を持たない労働者が、自分の労働力を売るしかない構造」だが、マルクスが提案する「労働者みんなで生産手段を共有する“共産主義”」が現代にマッチしているとは思えない、と。

(引用)

 それよりも、今の時代は、ひとりひとりが自前の「生産手段」を取り戻すことが、有効な策になるのではないかと思う。
 そのニュアンスをうまく表現してくれているのが、「小商い」という言葉だ。


と、平川克美さんの『小商いのすすめ』を引き合いに出している。

(搾取のメカニズム)
・生産手段を持たない者は、機械や工場を所有する資本家に労働力を売ることによって稼ぎを得る。
・労働力を買った資本家は、利潤を追求するために徹底的にこき使う。
・安く働かせるほど利益が上がるので、労働者は資本家にとって搾取の対象となる。

 →だったら生産手段を自分で持てばいい!という結論。

ところが、材料にこだわり、作り方にこだわり、本当に“いいもの”を作ろうとすると、“田舎で売れるような値段”ではなくなってしまう。“売れそうな値段”をつけようとする店主に、妻が言ったセリフがステキ。

 算数無視したら、経営なんて成り立たないよ。ふたりで何度も話してきたよね。「まっとうな”食”に正当な価格をつけて、それを求めている人にちゃんと届ける。それで世の中を少しでも真っ当な場所にしていこう」「つくり手が尊敬される社会にしていきたい」って。そのためには、つくり手がちゃんと暮らしていけなきゃいけない。この価格は”高い”んじゃなくて、原材料も含めて、”つくる”ことに対して支払われる”正当な”価格だと思う。

こうして、“利潤を出さない”を目標にする、変わったパン屋が岡山の田舎に登場することになった。

ココからは本の内容ではなく、極にゃみ的私見。
 この店のパンの価格はかなりお高いようだ。
 けれど、大手製パンメーカーの商品が“安価”で流通するのは、“それなり”だから。もちろん価格的には大量仕入れのメリットはあるにしても、逆に大量に仕入れることが可能な材料しか使ってないわけだし、流通のために添加されるよけいな物質も入っている。
 安いからとそれをチョイスすることが、長い目で見て本当に“リーズナブル”なことなのかどうか。食べ物は自分の身体の原料なのだから。


さて、本書の内容に戻る。
田舎でパン屋をやる理由は、環境。清浄な水、「天然麹菌」「天然乳酸菌」などの菌類が生きていること、そして近隣の農家から材料を調達できること。

自家採種した天然麹菌を使ったパン作りに取り組む中で、「自然栽培」の米の力に気づく。「有機栽培」のものだと、「酒種」を仕込むとき、乳酸発酵の段階で腐敗してしまうことがよくあったが、「自然栽培」のものは見事に乳酸発酵することにも気づいた。
自然の力、菌類の力。「菌本位制」でまわす小さな経済。

ところで今、小麦粉はほとんどが海外からの輸入に頼っている。大手の製粉会社が海沿いに巨大な製粉工場を作って、市場のほとんどを独占しているのが現状。
1960年代頃まで各地に在った小規模な製粉所はそのほとんどが淘汰されて姿を消し、国産小麦の生産も下火になってしまった。

地元産の材料にこだわる店主は、近隣農家で小麦を栽培してもらっているが、それは全粒粉で使用する20%のみ。精白した普通の小麦粉を作るには巨大な機械が必要なため、やむを得ず残りの80%は大手製粉会社から仕入れていた。
全量を「地域の自然栽培小麦」に切り替えるため、「ロール製粉機」を導入することにして、
現在一時休業&移転準備中
鳥取県智頭町の「旧那岐保育園」で、【パン・ビール・カフェ】の3本を柱に、2015年夏ごろ再開予定だそう。オープンしたら行ってみたいな。

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