2015.1.14付神戸新聞から「転換期を語る」大江健三郎氏
■安倍内閣の憲法改正について
閣議決定により集団的自衛権の行使容認を決めてしまった安倍首相に対して「閣議決定だけで決めてしまったことは明らかな国会軽視であり、民主主義に反する」と述べる。
「さらに憲法改正を言い出さないはずがない。そうなれば国会の中でも外でも大いに討論されることを期待しますし、民主主義、平和主義を守るためには、今の憲法を持たなければいけないと言い続けます。もし日本がどこかで戦争に踏み出してしまったら…。これほど大きな危機はかつてなかった。」
■大江さんにとっての「戦後」とは
終戦時は10歳で、それまでは国民学校で軍国主義的な教育を受けていた。終戦の2年後に新しい憲法が施行され、教育基本法もできて、新制中学に通うことになったが、先生が黒板に書いた憲法13条の条文「すべて国民は、個人として尊重される」に強い印象を受けた。
戦争に行かなくていいし、質問したことに先生は答えてくれる。
「民主主義の時代というものはいいなあと思いました。」
■安倍首相の「戦後レジームからの脱却」について
「平和主義、民主主義を真っすぐに立てていたあの時代のことを、良くない時代だったと言っているわけです。大きな被害を受けた後、民主主義の原則にのっとった教育や社会精神をつくった。日本が国際的に注目されている中心にあるのは、平和主義の憲法を持ち続けたことへの尊敬です。憲法を守り、平和だったこの70年がどれほど大きなことだったか。」
■安倍首相の「積極的平和主義」に対して
「安倍氏は言葉を自分流の意味で使い、それが正しい言葉として受け止められるように演出している。その例が『積極的平和主義』。いったん戦争が始まってしまえば積極的も消極的もない。平和主義か戦争主義かどちらかです」
■根本的な「モラル」について
作家のミラン・クンデラが評論集の中で、人間が生きていく上で一番人間らしい「本質的なもの」として「モラル」という言葉を使っていて、感銘を受けた。
「今この世界に生きていることが本質です。次の世代が生きていけるように、この環境を渡すことが根本的なモラルなのです」
■川内原発の再稼働に関して
「福島からは多くの人が避難した。原発は『本質的なモラル』に反するものです。人間には核分裂を完全にコントロールする能力はない。安倍氏が汚染水の問題で『状況はコントロールされている』と言ったのは根本的なうそです」
「あれは日本的な誇張法だといわれて、世界が日本のやることを信用しなくなる危機だと思います。日本人は間違った言葉の使い方で自己主張をする、本質的にモラルに欠ける人間だと。今後、いつどういう原発事故が起きるか、さらに日本が世界中の信頼を完全に失うのかという二重の危機にあります」
■健全であるために
「いま、知性主義が軽んじられ、信用されなくなっていると言われています。ただ知性というものは本質的にもろいものを含んでいる。高い知性があるはずの人間が歴史上、広島や長崎への原爆投下をはじめ、大きな過ちを犯してきました。知性が健全であるためには『おまえは間違っている』と、常に批評する人が必要です。人間に過ちを犯さない地盤があると考えることはできない。知性は本質的に信用できないというところから始めなくてはいけないと思っています」
「戦後70年で人間が行った最も悪い決定というのが原発。今年、日本人ができる大きな決断は、原発の再稼働をやめるということでしょう」
(聞き手は共同通信記者、上野敦氏)
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