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道迷い」シンポジウム 2

昨日開催された「道迷い」シンポジウムのレポートその2。Dsc02119
天候の悪い中、100名を超える参加者が集まった。
第2部は、道迷い経験者による報告。

 まず、泉州勤労者山岳会の西岡氏による石鎚山での道迷い遭難について。山頂から天狗岳、南尖峰を経て土小屋へ下る予定が、南斜面へ下ってしまい、三日間さまよって救助要請となった事例。
「ガスの中ろくに方角も確かめず進んだ」。ロストしたあとも「戻るために登るという考えは下れば道があるという幻の期待にかき消された」「沢を下ってはいけないと教わっていたが、下ることしか頭になく、下れない滝に出合うと尾根に登り返して巻いて下った」「進むうちに何度か岩から滑って沢に落ちて水にはまってしまった」というようなリアルな体験が報告されている。“ふつうに考えればありえない判断”をしてしまうことがあることがよくわかった。

 続いて同会の菅氏から、奥又白ベースで北尾根経由前穂高岳に登り、下山中にルートを間違えてビバークとなった事例の報告。詳細な行動記録と検証が行われており、再発防止策にも触れた内容。

 もう1件、愛知労山から「読図学習」山行での道間違い・道迷い事例の報告。講師自身が勘違いをして、メンバーはそれを指摘できず、結果的にビバークして翌日下山というケース。報告者は、もしこの件が下山遅れになっていなければ、内在していたさまざまな問題点が表面化することはなかっただろうと書いている。
 リーダーを明確にしていなかった点、ライトやツエルトなどの装備の不備なども含め、「無事下山」しても、じつはたまたま運よく問題が顕在化しなかっただけというケースが少なからずあるだろうことが想起できる。
 たまたま報告者がすべて労山所属だったので、川嶋事務局長が「なんで労山ばっかり…」と嘆いていたけれど、それだけ自覚的であって、事故防止に対する意識が高いのだと言えると思う。

 第3部「関連要因から見た道迷い発生のメカニズム」では、青山氏から「道迷いリスク対応能力の評価試験」についてのお話。18年間に渡って、約500名の被験者によって道迷い試験を行ってこられたが、極にゃみ的にもその1被験者である。被験者のデータをまとめると、約20%が「未整備の道でもそこそこ行動できる」レベルA、「単独で行動しない方がいい」レベルCが約35%。500人の被験者の中で、パーフェクトな結果を出した人が一人だけいて、それは村越氏だったそう。

 その村越氏からは「登山者の読図・ナヴィゲーションスキルの実態」と題して、国立登山研修所の研修生などを対象に実施した自己評価と読図テストの結果報告。地図・コンパスの携行率は約8割と高いが、地図を見る人は少なく、コンパスを見る人はさらに少ない。読図スキルの自己評価に関しては、経験年数に対応して向上。ただし、自己評価の点数と読図テストの得点を見比べると、自己評価がそこそこ高いのに点数の低い人がかなりいる。
レベル分けをすると、「地図・コンパスを携行する・見る」「基本的な地図記号が読める」「ナヴィゲーションに役立てられる」の3段階。

 続いて、再度青山氏から「道迷い登山者の行動分析調査法の開発と行動特性」と題した発表。道迷い事故を起こした本人は、認識が非常にあいまいで、インタビューには独特の手法が必要となる。
 道迷いの多くは登山道を外れてヤブに入ったところで発生していることから、ヤブ山での道迷い実験を行った結果についても報告。緩傾斜の丘陵地では、微地形が認識できず、読図的には非常に難しい。登山道からわずかにヤブに入ったところから実験をスタートするが、迷走して、現在地認識が現実と大きくずれてしまう傾向にある。移動速度は非常に遅く、ヤブの中では、リスクを避けて歩きやすさを優先するためか傾斜地、谷筋横断を嫌い、平坦地を選ぶ傾向があるなどある程度のパターンがあるので、把握することによってレスキューに役立てることができると考えられる。

 「地図読み講習主催者からの報告」と題し、Links.NATURE松尾健一氏から、2013年から計15回開催した講習会についての紹介。

 日本山岳協会遭難対策委員長西内博氏からは、「那須山岳救助隊の道迷い防止への取り組み」と題して、登山道を整備し、ルートを明確にすることによって遭難事例を減らす取り組みを紹介。道標に現在地番号を記し、補助プレートで行先などをわかりやすく表記。ロープを張ったり、石を並べるなどして登山道をわかりやすくしている。

 三重県山岳連盟の居村年男氏からは、鈴鹿山系(三重県側)における遭難事例の紹介と、地元行政との連携で道標整備などを行った結果、遭難数減少につながったこと、APRS(GPSチップ搭載のアマチュア無線機)の活用についてなど。パケット通信で位置情報を把握できる通信網を整備し、救助に役立てているとか。

 最後に、オーセンティックジャパンの高原千恵氏が位置情報発信機「ヒトココ」を紹介。行方不明者の捜索に役立つ小型の発信機で、子機はわずか20g、充電式で最大3か月駆動。捜索範囲は環境によって異なるが、条件のいい広場などでは1km、住宅密集地などでは約100m。親機に距離・方向・電波強度が表示される。警察や消防と連携し、ヘリやマルチコプターなど上空からの捜索検証も実施。「万能ではないが、これまで不可能だったことが可能になる」という説明があった。Dsc02112
久しぶりに“アノ加藤文太郎を演じる”加藤芳樹さんとお会いした。今は山岳雑誌『岳人』編集に関わっておられるのだが、いろいろとお話を伺えて楽しかった。

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