神戸新聞随想「西日本大震災への備え」
少し前の記事だが、3月26日付神戸新聞夕刊「随想」から。(写真は同日の神戸の街並み)
神戸大学名誉教授で地震学が専門の石橋克彦さんの記事で、前回3月11日「東日本大震災の教訓」と対をなす内容。大都市集中を是正し、分散型国土と自立型地域社会の確立が重要という指摘は、いろんな意味で非常に重要なことだと思う。
以下に全文を引用する。
この欄で何度か触れた南海トラフ巨大地震は、最悪だと文字通り西日本大震災になる。中部地方から九州までの各地で、激振動、大津波、地盤の隆起・沈降による大被害が発生する。兵庫県も瀬戸内側で被害が激しく、日本海側でも地盤が悪いと被害が出る。
被災自治体の数は膨大だから、大都市から過疎地まで、外部からの十分な救援は期待できず、基本的に自力の救助・復旧を強いられるだろう。
この地震は、100~200年ごとに発生しており、祖先たちも被災と復興をくり返してきた。しかし、1854年安政大震災までの被災者は、私たちとは根本的に違う暮らし方をしていた。低い生産力や身分制度の厳しい制約はあったが、生活全般が自然的・自給的・自立的だったのだ。
だが現在は、「顔の見えない他者」に地球規模で依存する暮らしになっている。この状況下で初めての超広域大震災は、食糧・生活必需品・エネルギー・医療・人の偏在と、インフラの壊滅によって、震災地の自力復旧を著しく困難にする。
地震への備えは、人命保護が第一だが、被災者が地元で一日でも早く平穏な生活を取り戻せる事前準備も欠かせない。地震列島という風土から懸け離れた社会経済構造の根本的変革が、最大の地震対策だと言えよう。
しかも、大都市の過密と地方の過疎が、両方の地域で、復興期を含めた震災を激化する。1854年当時は人口3300万人が全国に分散していたことを思えば、自治体消滅などが騒がれる今の日本の国土と社会のいびつさは明らかだろう。
この地震の大きな問題は、発生時期と規模が不確かなことである。逆にいえば、人命を救う応急対策と同時に長期的な対策も重要なのだ。平常時にも望ましい分散的国土と自立型地域社会の確立を本気で追及すべきだ。
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