『明日の子供たち』
稀代のストーリーテラー、有川浩さんが「児童養護施設で暮らす子供たち」をテーマに書き下ろした本。作品の最後に、本好きのヒロインが大好きな作家に宛てて
「児童養護施設をテーマに本を書いてほしいんです」という手紙を書くシーンがある。
世間では児童養護施設についてほとんど知られていないし、正確に知っている人はほとんどおらず、そのために子どもたちが辛い思いをすることもある、と訴え、
「そこで、先生に児童養護施設をテーマに本を書いてほしいんです。先生の書かれる本の影響力はすごいです。先生が本を出すと、たくさんの人が先生の本を読みます。もし先生が児童養護施設をテーマに本を書いたら、今までの施設のイメージが変わると思います」とリクエスト。
どうやらこの手紙は、実際に児童養護施設で暮らす高校生から送られて来たものが下敷きになっているようだ。手紙を出した高校生の願いは、叶えられたと思う。とてもよい作品だった。
『明日の子供たち』
有川浩 著
2014年8月 初版発行
幻冬舎 刊
ところで、昨年冬に『明日ママがいない』というTVドラマがオンエアされて物議をかもした。
児童養護施設が舞台となった物語だが、その表現を巡って、「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)を運営する慈恵病院が抗議、全国児童養護施設協議会(全養協)と全国里親会は「視聴者の誤解と偏見を呼び、施設で生活している子どもたちの人権を侵害しかねない」と批判、オンエアはされたが、スポンサー各社はCM自粛という異例の事態になった。
極にゃみ的には、そもそもTVを見ないので当然このドラマもオンエアは見ていないのだが、YouTubeでさわりだけ見てみた。
ドラマの演出、といえばそうなんだろうけれど、おどろおどろしい雰囲気で、なんとなくゆがんだ子どもたちと、不気味で恐ろしいところ、というイメージが描き出されていた。
当事者たちが「実際と全く違う」と批判の声を上げたのも当然だと思った。
(当事者の子どもたちが「心情がリアル」と評したという話もあるが)
有川さんのこの作品は、親と離れて暮らさなければならない、さまざまな事情を持った子どもたちが、それぞれにその事情と折り合いながら生きている姿が描かれている。高校を卒業すると施設を出なければならず、進路について先生方がいろんな考え方を持ちながらも苦悩する姿もリアルだ。けれど、有川さんならではの心温まる結末も用意されている。
そして、本が大好きな(?)作者らしいセリフが。
施設長の柔和な女性が、読書好きのヒロインに向かって語る場面。
「人生は一人に一つずつだけど、本を読んだら自分以外の人の人生が疑似体験できるでしょう。物語の本でも、ドキュメンタリーでも。そうやって他人の人生を読んで経験することが、自分の人生の訓練になってることがあるんじゃないかって、先生は思うのよ。踏み外しそうなときに、本で読んだ言葉が助けてくれたりとか……」
ホントにそう思う。本って、小さな紙の束の中に、無限の世界が詰まってる。
よい本と出会って、人生が変わることもある。
そんな作品を書き続けている有川さん、本当に素晴らしい。
★『明日の子供たち』有川浩さん
私たちは「かわいそうな子供」ではない
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