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『偽りの戦後日本』

政治学・社会思想研究者で、『永続敗戦論』を著した白井聡氏と、Ituwarinosengo_nihon『人間を幸福にしない日本というシステム』などで知られるオランダ出身のジャーナリスト カレル・ヴァン・ウォルフレン氏による対談をまとめた一冊。原発、米軍の基地問題、新自由主義についてなど、戦後70年を迎えた日本が抱えるあらゆる問題を論考。

『偽りの戦後日本』
白井聡 カレル・ヴァン・ウォルフレン 著
角川学芸出版 刊
2015年4月 初版発行

参考サイト
★日本の右傾化 左翼が夢物語ばかり掲げたからとウォルフレン氏…ココ!

少しだけ抜粋。

第1章 日本はふたたび戦争に踏み出すのか
「戦後レジームからの脱却」の正体
P30
ウォルフレン
 安倍さんは自らを「愛国者」だとアピールしていますが、実際には全く違います。彼は単なる「ナショナリスト」に過ぎません。「愛国者」と「ナショナリスト」は日本ではよく混同されますが、似て非なる存在です。愛国者とは、純粋に「国を愛する人」を意味している。一方、ナショナリストは「自分の国が他国よりも優れていると考える人」のことを指す。ナショナリズムはイデオロギーですが、愛国心はそうではない。左翼の連中は「愛国者」や「愛国心」と聞くと途端に警戒しますが、何も問題にするようなことではありません。自分の国を愛することは大切で、別に他国を傷つけるものではない。問題はナショナリストであって、安倍さんはまさにこの「ナショナリスト」なわけです。

第2章 敗戦国の空虚な70年
「敗戦」を認められない日本人
P50
ウォルフレン
 日本人が「敗戦」を認められないとすれば、その背景にはもう一つ、日本人がずっと支配者に抑圧されてきた歴史もあるのではないかと思います。言い換えれば、民主主義が定着していない。だから戦争に対しての責任が認められず、むしろ被害者意識すら持ってしまう。知識層にすら「一般の人々には戦争の責任はなかった」という人がいます。

白井
 日本人のメンタリティに自由がないことも影響しています。明治維新によって江戸時代が終わり、昭和になって敗戦も経験した。そのたび表面的に体制は変わりましたが、自由の欠如は変わっていません。その理由についてはさまざまに論じられてきましたが、僕の実感からすれば、日本人から自由を奪っている最大の要素は、同調圧力の強さだと思うのです。ただし、同調圧力はどの社会にもあるので、それに抵抗する力の弱さと言った方が正確かもしれません。この傾向は都市化の進行とともに消え去るのではないかとも考えられたのですが、ここ15年ばかりの流れを見るに、むしろ強まっています。原因については定説がありません。風土のせいなのか地政学的要因なのか……。いずれにせよ、自由がないということは、責任を持つ必要も生じない。まさに政治学者の丸山眞男が「無責任の体系」と呼んだ状況です。
「無責任の体系」は現在も続いてしまっている。それを明らかにしたのが、4年前の東日本大震災で起きた福島の原発事故でした。あの事故は、自由な人間がいない国が生み出してしまった悲劇です。原発業界の関係者にとっては、原発の実際の安全性よりも「安全神話」に同調し、それを維持することが重要だった。その結果、悲惨な事故につながってしまったのです。こんなやり方をしていれば、私たちは再びあの戦争と同じ過ちを犯してしまう。

第3章 右傾化する日本人
政治に「神話」を持ち込む安倍政権
P122
白井
 今、護憲派には二つの考え方があります。一つは、何が何でも憲法を変えないという立場です。この人たちはウォルフレンさんが批判されたように、憲法が現実と乖離していることを無視し、ひたすら「憲法は素晴らしい」と言い続けている。もう一つの考え方として、戦術的護憲派とでも呼ぶべき立場があります。今の憲法をよりよいものにしていくため、憲法改正も認めるけれど、現在の政治状況では護憲と言わざるを得ない、という立場です。

第4章 新自由主義が支配する世界
「ポチョムキン村」化する日本
ウォルフレン
 新自由主義とは、政府の介入を最小限に留め、何でも市場に任せようという考え方です。そのために何よりも「効率」が優先される。また、企業にとっては、短期的な視点で利益を生むことも求められる。日本には全く馴染まないものだと思います。(略)
 しかし、やがて日本も新自由主義の影響を受けるようになりました。「効率」ばかりを重視すれば、クオリティ(質)に問題が生じてしまいます。それでもよしとされるようになった。中身の質がどうであれ、とにかく効率を重視する。そのためには「見た目」が重要です。見た目さえ整っていれば、実体が伴っていなくても構わない。つまり、現実が「見た目」に置き換えられてしまった。PR(パブリック・リレーションズ=広報活動)を駆使すれば「見た目」を繕うことも簡単です。そうしてPR重視の考え方が広がってしまい、日本の良さのみならず、本来持っている強さまでも失われていきました。


白井
 新自由主義化は世界資本主義の趨勢です。効率が効果に取って代わることで、本質的な意味で生産性の基礎となる社会の体力が奪われて行きます。だから中身はスカスカになって行くのですが、それを広告で誤魔化す。あらゆる社会的領域でそのような現象が起こっています。
ウォルフレン
 新自由主義の本質である市場原理主義は、「マーケット・スターリニズム」とも呼ばれています。「スターリニズム」とは、かつてのソ連における全体主義支配のことです。スターリニズムのもと、ソ連は世界に対してあらゆる面で自分たちが最も優れていると宣伝していた。実際のソ連は、西側諸国よりもずっと遅れた国でした。しかし、外国人観光客がモスクワを訪れると、模範的な施設だけに案内してソ連の素晴らしさをアピールしようとしていた。


白井
 古くはロシアの「ポチョムキン村」ですね。 (略)

ウォルフレン
 そうです。新自由主義とは、ソ連の「ポチョムキン村」と何ら変わらないのです。

第5章 終わらない「敗戦」を乗り越えるために
ドイツとイタリアにできて日本にできない脱原発
P180
ウォルフレン
 (略)官僚たちは、アメリカがすっかり変貌したという事実に目を向けていないのです。“昔のアメリカ”をベースに物事を考えている。だから、今でも対米従属が日本の利益に適うと信じ、全く疑おうとしていない。

あとがき
P220
 最近も、歴史に関する理解がいかに重要であるかを思い知らされる出来事がありました。ジャーナリストの後藤健二さんらがシリアで「ISIS(イスラム国)」に惨殺された後の日本政府の対応です。安倍首相はイスラム国と戦う姿勢を明確に示しました。しかし、後藤さんたちは、いったい何の犠牲になったのか。シリアにおける政治的混乱とイスラム国の狂信的な戦闘員たちをつくりだしたのは、他でもなく日本の最大の同盟国であり、かつ日本を守ってくれているはずの国なのです。その事実について、いったいどれほどの日本人が理解しているでしょうか。
 安倍首相が信じているような「対テロ戦争」など、現実には全く不可能です。今世紀に入ってからの「歴史」を振り返るだけでも、そのことは明らかになっている。「対テロ戦争」など虚構に過ぎません。テーブルについて和平交渉すらできないような相手との間で、戦争をすることなどできるはずもないのです。

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