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『幻花』

1974~75年にかけて新聞連載された瀬戸内晴美(現・寂聴)さんの小説。
Genka
横尾忠則さんが挿絵と装丁を手掛けておられる。写真は上巻の大扉。

『幻花』(上下巻)
瀬戸内晴美 著
川出書房新社 刊
1976年1月 初版発行

1974年と言えば、42年も前。ソ連がまだ存在し、ルバング島のジャングルから最後の日本兵・小野田寛郎元少尉が発見され、アメリカではウォーターゲート事件が起きてニクソン米大統領が失脚。タカラヅカで『ベルばら』初演、アニメ『宇宙戦艦ヤマト』が放送開始。佐藤栄作がノーベル平和賞を受賞し、田中角栄が退陣表明した年。にゃみにゃみ。は、なんとまだセーラー服を着た中学生(←女装!)。

さて作品。
舞台は京都。上流階級のミステリアスで妖艶な「摩耶夫人」(まやぶにん、ではない)と、その友人の小説家が、夫人の屋敷の庭にある、五百年ほど前のものらしい十三重石塔の台座から古びた箱を見つける。中には、中世の頃のものらしい日記のようなものが収められていた。その日記は…

ときは、八代将軍義政公の治世。巷で「三魔」と酷評された義政の乳母で愛人とされる今参局に仕える女官が書いたもの。
“お今さま”と、正妻として輿入れしてきた日野富子の確執、庭師として、あるいは猿楽師として重用された“河原者”のこと、森侍者と一休禅師…
やがて応仁の乱が起き、都が焼野になるという室町期の歴史の中で物語が進行する。

まつりごとにはすべからく人々の欲が絡み、いくさになれば得をする側とひどいめに遭う側があり、災害や飢饉、戦乱では弱いものから死んでいき、強欲なものは逆に肥え太る…という、まさに現代と変わらぬ世情が語られている。まさに今、読むべくして巡ってきた、縁のある作品なのだと感じた。
Dsc04521
51歳で得度された瀬戸内さんがその2年後の53歳で書かれた作品だが、非常に奥行きのある味わい深いものに仕上がっていると思う。
また、挿絵の横尾作品も素晴らしい。

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