「一般登山者でもできるファーストエイド 〜やった方がいいこと、やってはいけないこと〜」
6月2日に行われた「百万人の山と自然2016」、浅井悌医師のお話の要約。
NPO法人災害人道支援会、日本山岳ガイド協会のFA担当理事でもある。
今回の講義の目標は「今年の夏は熱中症にも低体温症にもならない」。
2007年2月の八甲田山、2009年7月のトムラウシ、2012年5月の白馬岳・涸沢岳での事故例でも知られるように、低体温症で遭難になるケースが後を絶たない。
「正常体温」とは、化学反応が適正に起きる範囲の温度で、低すぎれば代謝が低下し、仮死状態に、高すぎると熱による蛋白凝固のような状態になり、いずれも生命にかかわる。
【低体温症】
かつては「低体温症になるまでにはある程度の時間がかかる」とされていたが、トムラウシでわかったことは、意外なほど短時間で陥るということ。
寒冷刺激に対して、熱産生が追い付かなくなると体温は低下する。風と濡れが大きな要因となり、北アルプスや北海道の山では夏でもありうる。
意識が清明で震えのある段階は軽症の「1度」で、温かい飲み物と暖かい衣服や環境によって回復するが、放置すると急速に次のステージへと症状が進む。
風をよけること、ツエルトなどで包むこと、濡れた衣服を着替えさせること、人とくっつく、お湯を入れたボトルなどで加温することなどが有効。
ダウンジャケットなどは、かぶせるだけでは不十分で、首元までファスナーを閉める、地面と接している部分からの放熱にも気をつける。
意識がはっきりしていれば、温かく糖分を含んだ飲み物を少しずつ飲ませることも有効。
【熱中症】
熱中症とは、体液の不足で起きる障害と、体温上昇で起きる障害の総称。
かつては、日射病、熱射病、熱けいれんなどに分類していたが、現在はひとまとめで「熱中症」と称する。
足がつる、汗が止まらない、めまい・立ちくらみなどは熱中症のサイン。
なんとなくだるい、足がつる、食欲がない、ペースが落ちる、尿量が少ない、いらいらする、などの症状があれば“かくれ脱水”。
山では、汗をかきやすい割に、高機能ウェアなどによって汗をかいた感じがしない、呼吸から失われる水分が多いことなどから脱水しやすい。
また、荷物を軽くしたい、トイレ回数を減らしたい、飲むのが面倒などの理由で水分摂取を控える人が多く、脱水につながる。
失った体液を補うには「経口補水液」が適している。小腸で効率よく吸収するための比率になっていて、スポーツドリンクと比べると糖分は少な目、塩分が多め。
★経口補水液の市販品には大塚製薬「OS-1」味の素「アクアソリタ」がある。
山に持って行くには粉末タイプがおすすめ。
※極にゃみ的補足…簡単に自作できます。
水1リットルに対し、砂糖大さじ4杯半(40g)、塩小さじ1/2杯(3g)、果汁100㏄を混ぜる
(悳秀彦先生「アウトドアの救急法」より)
そのほか、よく見かける光景だが、「薬をあげる」行為は要注意。
市販薬はともかく、病院で処方された薬を譲渡するのはNG。市販薬とはエキス量が違うものもあり、薬の飲み合わせの問題もあり、リスクが高い。
「芍薬甘草湯」「モーラステープ」などがよく善意で譲られているようだが、浅井医師いわく、「薬はあめちゃんではない」
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