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『東京零年』

近年、娯楽小説を読む余裕はないのだけど、久々に小説を読んだ。
Tokyo_zero人気作家赤川次郎さんの作品で、第50回吉川英治文学賞受賞作。
あちこちに監視カメラが設置され、携帯電話を持っているとたちどころに居場所をつきとめられる。圧倒的な権力はマスメディアを支配し、権力側に不都合な情報は人々に知らされない。
“近未来の日本を舞台に、暴走する権力とそれに抗う若者”を描いた作品、という触れ込みだが…
近未来?ディストピア? ほとんど“いま”と地続きじゃないのか?
さすがに、「それはない」って事件がいくつか起きるけれど、いやいや、知らないだけで、巧妙に隠されて、それに類することは起きているかもしれない… 面白い、いや、リアリティを感じるだけに、恐ろしい作品だった。

『東京零年』
赤川次郎 著
2015年8月 初版発行
集英社 刊

“都合の悪い”存在がいともたやすく冤罪に陥れられたり、命を奪われそうになるのだが、「表沙汰にならない、暗黒部ってきっとホントにあるんだろうな」と思わざるを得ない事件も現実には起きているわけで。

それはさておき、いま沖縄で、ほとんど戒厳令下のような状況になっているのをご存じだろうか。辺野古もたいへんな状況だが、ここ数日、高江のヘリパッド建設に対する抗議活動を封殺するため、東京・大阪をはじめ、日本の各地から大量の機動隊が現地へ派遣されている。
名目は「道案内」だそうだが、反対派の市民が現地へ行くことを妨害。明日は県道を封鎖するとの情報もある。警察権の乱用とか、まるで小説のようだ。

★高江向け県道で検問 識者批判「警察権を乱用」…ココ!(琉球新報/2016年7月20日)

こんなに強権的なことが行われているのに、中央メディアはほとんどこれを報じない。もしも改憲が行われ、「緊急事態条項」が発動したら、とんでもないことになるのは明白。

昨品中にこんなセリフがある。権力者の息子と、反権力ジャーナリストの娘が奇遇な縁で知り合って、美術館を訪れたときに、強権的な態度の若い係員ともめごとになる。

P180
「あの美術館の男の人、きっと普段はおとなしくて、人のいいなりになっているのよ」
 と、亜紀は言った。「そういう人が、他の人間を自分に従わせる権力を持った。あの人にとっては何よりの快感なのよ、人に注意して謝らせるのが」

(略)
「あんな奴、雇うからいけないんだ」
「でもね、今はああいう人が大勢いる。自分が辛くて苦しいと、弱い者に向かっていばって見せるのが気晴らしになるのよ」
「うん……。確かに、あちこちで見かけるな。駅員を怒鳴りつけてる人とか、デパートやお店でも、店員を大声で罵ってる客とか」
「権力を振う快感は麻薬よ。人をじわじわと毒で侵して行く」

(略)
「(略)でもね、健司君。世の中はそれだけじゃ良くならないの。優しさは大切だけど、この世の中を動かしてるのが誰なのか、そしてその人たちが、日本をどんな社会にしたがっているか、知る必要がある。言い換えれば、知らないことは罪なの」

P274
(ヒロイン亜紀の父の回想)
 マラソンに集まる何万という人々の一割でも、「反戦のための集会」に集まってくれないものだろうか。戦争に日本が巻き込まれないことが、マラソンよりずっと大切だということくらい、誰にでもわかるだろうに。
 仕方ない。今、人々は目の前の愉しみにしか関心がない。反戦だの反原発だのと聞くと、
「そんなの、自分の考えることじゃない」
 と、そっぽを向いてしまうのだ。
 では誰が考えるのか? そう聞けば、
「知らないよ」
 という返事が返ってくるだろう。
 知らないよ、で済むわけではない。戦争になれば、戦場に駆り出されるのは、「難しいことは考えない」若者たちなのである……


リアル、今の社会そのもの。作者は、小説という手法で、問題提起をしているのではないのか。『反知性主義とファシズム』などという本も読んでみたけど、ファシズム的なものは、密かにじわじわ迫ってきている。今の流れを止めないと、ディストピアが現実になる日も遠くないと思う。

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