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『へろへろ 雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々』

福岡市の老人介護施設「宅老所よりあい」。お寺の茶室を借りてのHerohero発足から、「総工費2億円、土地代含めて3億円」の特別養護老人ホーム「よりあいの森」を完成させるまでのスリリングな日々を描いた作品。
よれよれの老人たちが集まる「よりあい」の雑誌『よれよれ』を制作してきた編集者が綴ったものだが、独特の飄々としたタッチで、一般的な“常識”で考えると相当悲壮な話も、なんだか面白おかしなタッチで描かれており、読んで楽しい作品になっている。

『へろへろ 雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々』
鹿子裕文 著
奥村門土(モンドくん) 装画
2015年12月 初版発行
ナナロク社 刊

★「宅老所よりあい」HP…ココ!

福岡市の中心部に近い、「地行」という昭和の香りが残るまちに、誰もが手を焼く「とてつもないばあさま」がいた。夫と死別してから、明治女の気骨で誰の世話にもならず一人で生きてきた方だが、寄る年波には勝てず、ボケが進んだ。
「伸びに伸びたざんばら髪を振り乱し、体臭をこじらせたケダモノ臭と煮しめたようなアンモニア臭をまき散らし」、大量に買い込んだ食料を腐らせて異臭騒ぎを起こしたり、ガスコンロで暖を取ろうとしてボヤ騒ぎを起こしたり…
「よりあい」の発起人の一人である下村恵美子さんがそのばあさまを説得。老人ホームに入ることを提案。ところがばあさまは…
P14
「なぁんが老人ホームか!あんたに何の関係があろうか!あたしゃここで野垂れ死ぬ覚悟はできとる!いたらんこったい!」
その激しい剣幕と覚悟の言葉は、下村恵美子を完全にしびれさせた。
「おほぉぉぉ。この都会で野垂れ死にする覚悟で生きとる『ばあさま』がおる。こりゃぁその『野垂れ死ぬさま』をなにがなんでも拝ませてもらわんといかん!」


ところが、どこも受け入れてくれるところがなかった。
P16
「けっ!ばあさま一人の面倒もみきらんで、なんが福祉か! なんが介護か!なんが専門職か!バカにしくさって!」(略)
「ああもうわかった!もう誰にもたのみゃせん! 自分たちでその場ちゅうやつを作ったらよかっちゃろうもん!」


そして、「つべこべ言わずにちゃっちゃとやる!」ということでスタートしたのが「よりあい」。
さまざまな経緯と縁により、緑豊かな森の中に建つ(珍しい)木造のホームとして2015年4月に開所。

詩人の谷川俊太郎氏が開所祝いに贈った詩を転載。

みんなイノチ
「よりあいの森」に寄せて
       谷川俊太郎

 いろんなイノチの棲み処です
 花咲くイノチに空飛ぶイノチ
 呆然イノチに猛然イノチ
 地を這うイノチに刺すイノチ
 しゃかりきイノチに泣きべそイノチ

 ここはまたいろんなイノチの停留所
 来る人がいて去る人もいて
 若葉に紅葉 枯葉に落ち葉
 春夏秋冬色とりどりに時を過ごす
 楽しくお徳用な特養です




極にゃみ的に本書の肝だと思う部分を抜粋。
P66
 お金で本当の安心は買えない。お金で買えると思っている安心は、結局のところ、出した金額分しか戻ってこない等価交換の商品券なのだ。立派で豪華なパンフレットに書かれている希望めいた文言は、本当の希望であったためしはなく、だから立派で豪華に装う必要があるのだろう。そういうものに、何かを託すことはできない―そう考える人たちがいる。
 自分が実際目にして、耳にして、鼻でにおいをかいで、そして心の奥で感じたもの。人と人が顔を合わせ、たわいもない会話を交わしていく中で自然に育まれていく、情のようなもの―そういうものを大事に思う人たちがいる。
 困ったときはお互い様という、そのささやかさの中に、お金とは交換できない大切なものがひそんでいる―そのことを知っている人たちがいる。


まさに、マネー資本主義と対極にある考え方。新自由主義経済なんてくそくらえ。儲ける事しか考えてない存在とは別の軸で、人々は連携しながらたくましく生き延びていくのだ。
本書は、そんな希望の実例があることを教えてくれた。

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