『日本戦後史論』
先日の講演会『戦争に負けるということ』の内容とも重複する部分が多いのだが、内田樹氏と、白井聡氏の対談をまとめた一冊。
いま、恐ろしい勢いで右傾化しているこの国。極右の都知事が誕生、続いて極右の防衛大臣が誕生。諸外国では問題視されているようだが、国内ではそんな報道もほとんどない。「反知性主義」という言葉が巷間でちらほら聞かれるようになってきたが、国会運営も、選挙も、“ありえない”結果が出てしまうこの国とは…。
「こうなってしまった」要因は、「敗戦の否認」という呪縛、日本人の「自己破壊衝動」…という説。興味深く読んだ。
『日本戦後史論』
内田樹・白井聡 著
2015年2月 初版発行
徳間書店 刊
極にゃみ的に気になった部分を少し引用。
P36
内田 アメリカの映画監督のオリバー・ストーンが「日本はアメリカの衛星国(satelite state)であり、従属国(client state)である」と断言しました。
(にも関わらず)このスピーチを日本の新聞はどこも報道しませんでした。(略)無視した。そんな話は「なかったこと」にしようとした。世界中の国が日本はアメリカの属国だと思っていて、日本だけが自分は主権国家だと思っている。(略)全て70年前の敗戦の総括ができていないことに起因するのだろうと僕は思います。
白井 おっしゃる通り、これほど奇妙な敗戦国は世界史上類を見ないのではないかと思います。負けた原因をきちんと精査できなかった第一の原因は、戦前から連続する支配層が、「お前のせいじゃないか」と責任追及されることから逃れたことに求められるでしょう。その後は冷戦構造の中でアメリカ陣営に付いて、かつての敵をこれからは仲間なんだということにした。これが敗戦の責任を有耶無耶にするメカニズムです。
P40
白井 ところが困ったことに今はグローバル資本主義の時代になって、周辺的領域だからどうでもいいやというふうに放っておいてはくれません。やれTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に入れとか、司法制度をアメリカ流に改革しろだとか、無茶なことを押し付けられる。日本の有権者を見ていてほんとうに唖然・茫然とすることが多いんですけれども、二年前の選挙の時もTPPについて「聖域なき関税撤廃ということになったら、われわれは交渉から撤退する」と自民党は公約した。こんなスローガンを信じる人間がこの国にたくさんいるということに改めて衝撃を受けました。今まで自民党が公約をどう扱ってきたかを見れば、公約が守られないのは自明です。かつて「大型間接税は導入しません」と言いながら、選挙が終わったとたんに「消費税をやります」とかありましたね。
P102
内田 (それを現場の役人が)「お上」はこういう人間をきっと嫌うに違いないというふうに「忖度」して頼まれてもいないことをする。こういう「忖度する小物」たちが今では日本の政治機構を機能不全にしている。(略)自分の考えではないから、それに対して責任を取る気なんかない。(略)責任は「上の人」にある。「上の人」はそんな指示を出した覚えがないわけですから、もとより責任を取ることなんかしない。つまり「忖度システム」が作動し始めると、機構の中のどこにも責任者がいなくなるのです。
P121
内田 安倍首相の「戦後レジームからの脱却」路線は、どこか破局願望によって駆動されているという印象を僕は抱いています。このあと仮に尖閣で日中間で偶発的に軍事的衝突があったら、安倍首相はすぐに国家安全保障会議を開いて、安全保障に関する全情報を特定秘密に指定して、報道管制を敷くでしょう。国会も召集されないし、メディアも何も報道しない。
P191
内田 アメリカの場合、日本研究に資源を投じたのは、日本がリスクファクターだったからでしょう。80年代まで、日本はアメリカにとってパートナーであると同時にリスク要因でもあったわけですよ。それが日本が衰退してきて、リスクではなくなった。(略)でも今みたいな政権だとこの先何かのはずみでアメリカを面倒な自体に引きずり込むリスクがある。
少し前に読んだ『「意地悪」化する日本』も面白かった。
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