『東京ブラックアウト』
3年前の秋に読んだ『原発ホワイトアウト』に続いて書かれた話題作。311後の実際の新聞記事の抜粋と、作品世界がパラレルに展開していく、ちょっとユニークな方法で構成されている。新聞記事は当然ながら実在の人物の名前などが出てくるが、小説の部分は絶妙のネーミングになっている。その登場人物たちの、話すこと・やることが、なんとも言えず“リアリティ”があって怖い。“悪夢の近未来小説”とも称される、とてつもなく恐ろしい内容。けれど、このまな行くと、“起きてもおかしくない未来”だ。
“政・官・財が密接に結びつく原子力ムラの実態を暴露した衝撃作”という紹介コピーもあるように、作者は現役の高級官僚。小説というスタイルを取ってはいるけれど、きっと、“限りなくそんな感じ”なんだろうな、と…
一読をお勧めする。
『東京ブラックアウト』
若杉 冽 著
講談社 刊
2014年12月 初版発行
「95%ノンフィクション」とあるが、内容はこんな感じ。
典型的な冬型の気圧配置となった、とある年の瀬。
爆弾低気圧が豪雪を降らせる中、なぜか関東地方で大規模な停電が発生する。
新崎原子力発電所でも停電が起きるが、非常用電源車の車庫棟は折からの豪雪で埋まっている。しかも高台にあるため、アプローチの道路が凍結。猛吹雪ともあいまって近寄れない事態に。冷却装置のバッテリーが切れて、原子炉は次第に高温になっていく。
関東電力本店や官邸のオペレーションルームに緊張が走る中、資源エネルギー庁の高官のひとりがこっそりとトイレの個室へ。
「災害時優先携帯電話」を使って妻に電話をかけ、すぐに子どもを連れて海外へ脱出するよう指示する。
ココから抜粋 P8
玲子にはフクシマの悪夢が頭をよぎった。そして実際、フクシマ原発事故に際しては、多くの経産官僚はもちろん、実は当時の経済産業大臣たる江田川も、家族をシンガポールに逃がしていた。このとき即座にチケットをおさえて江田川家に届けたのは、税金で給料が賄われている、江田川の公設秘書であった。
(略)
ちょうど同じころ、二子玉川にある高級幹部用の公務員宿舎では、窓という窓のカーテンがすべて閉められていた。
駐車場の自動車は一台もなくなり、自転車置き場の自転車もほとんどなくなっている。慌てていなくなったのか、三輪車や子ども用の自転車だけがその場に転がっている。
P269
「2004年、経産省の当時の若手が、極秘文書にわかりやすい解説を付したパワーポイントを『十九兆円の請求書』と名付けて、プレスにばらまいた。十九兆円の請求書事件だ」
「ええ、聞いたことはありますが……」
東田の目に光が宿った。守下の術中にはまった。
「……『十九兆円の請求書』に関わった若手、そして応援した中堅官僚は、みんなパージされたって話だけどな。でも、核燃料サイクルがインチキだってことだけは、どうにも隠しようのない真実として広く世の中には伝わった。(略)
“山下次郎”議員が天皇陛下に直訴状を渡したという事件も取り上げられている。これは、違法でも何でもないそうだ。
P284
天皇陛下に請願をしたからといって、いかなる「差別待遇」も受けないのである。
山下次郎議員の行為は、天皇陛下に直接手渡したという点で、請願法第三条に定める、
「天皇に対する請願書は、内閣にこれを提出しなければならない」
という手続に則っていないだけであり、内閣に提出された場合には、適法に受理されるべきものだ。
結局、山下が全国民の代表として行った勇気ある直訴は、法律に無知なるがゆえに、なんとなく山下が非常識な人間であるという印象だけを残して、人々の記憶に澱となって沈んでいった。
参考サイト
★【震災4年 インサイダーたちの警鐘(上)】
「茶番許すな」 覆面官僚作家の若杉冽さん…ココ!
★『東京ブラックアウト』若杉冽×古賀茂明 告発対談…ココ!
そして、本作品のラストには、
「今上陛下への請願の送付先」の宛先が記載されている。
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