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『沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか』

大手メディアは、政権に不都合なことをまともに報じようとしない。
少し前のことだが、「報じるべきことをまっとうに取り扱っているのは東京新聞と沖縄2紙だけだと思う」と述べたら、「それは相当偏ってますね」と言われたことがある。
偏っている(と思われている)のは、私であり、それらの新聞でもある、という意味なのだろうけれど…

新聞が偏向している…。
もちろん、各紙にはそれぞれのスタンスがあり、同じ事件を報じても、切り口も表現もずいぶん違う。同じ事件を取り扱っても、読売や産経と、朝日や毎日ではずいぶん違う。
Okinawa_henkoマスメディアではさらっとしか紹介されていないようだが、Twitterの私のTLには、辺野古の情報が毎日のように入ってくる。現場から、リアルタイムで。
それは、取りも直さず私が辺野古の問題に関心を寄せているからなのだが、では、特に関心がないヒトたちには、いったいどう見えているのだろう?
TVなどのマスメディアにしか触れない人たちにとって、沖縄で起きていることは、どういうふうにとらえられているのだろう。
…そんな疑問から手にした一冊。

『沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか』
安田浩一 著
朝日新聞出版 刊


参考サイト
★「つぶせ」と言われた沖縄の新聞。本当に「偏向」しているのか
 【インタビュー前編】…ココ!
 【インタビュー後編】…ココ!
★ブック・アサヒ・コム【書評】
  斎藤美奈子(文芸評論家) …ココ!
★「現代の理論」【書評】
  編集委員・黒田貴史氏「沖縄の事実・歴史が記者を鍛える」…ココ!

例によって少し中身を紹介してみる。
まず、百田尚樹氏による沖縄への偏見に満ちた発言が紹介されている。

2015年6月25日、安倍晋三首相に近い自民党の若手国会議員ら約40名が、党本部で開いた勉強会「文化芸術懇話会」の席上で、講師役に招かれた百田尚樹氏。
例の「マスコミを懲らしめるには、広告料収入がなくなるのが一番」発言に続いて、沖縄についてこんな発言をしている。

P26
衆議院議員・長尾敬
「沖縄の特殊なメディア構造をつくったのは戦後保守の堕落だ。(百田)先生なら沖縄の歪んだ世論を正しい方向に持っていくために、どのようなアクションを起こすか。左翼勢力に完全に乗っ取られているなか、大事な論点だ」
これに対し、百田は
「私も沖縄は、あの二つの新聞社がめっちゃ頭に来てね。僕ね、琉球タイムス(ママ)でしたか、一回記事に大きな見出し書かれてね。『百田尚樹、また暴言』って。『また暴言』はないやろって。本当にもう、あの二つの新聞社から私は目の敵にされているんで。まあほんとに、沖縄のあの二つの新聞社はつぶさなあかんのですけども」
「沖縄県人がどう目を覚ますか。あってはいけないことだが、沖縄のどっかの島でも中国にとられてしまえば目を覚ますはず」
「もともと普天間基地は田んぼの中にあった。周りに何もない。基地の周りが商売になるということで、みんな住みだし、いまや街の真ん中に基地がある。騒音がうるさいのはわかるが、そこを選んで住んだのは誰やと言いたくなる。基地の地主たちは大金持ちなんですよ。彼らはもし基地が出て行ったりしたら、えらいことになる。出て行きましょうかと言うと『出て行くな、置いとけ』。何がしたいのか」
「沖縄の米兵が起こしたレイプ犯罪よりも、沖縄県全体で、沖縄人自身が起こしたレイプ犯罪のほうが、はるかに率が高い。例えば米兵が女の子を犯した。それで米兵は出て行けと言う。じゃあ、高校生が街の女の子を犯したらその高校を全部撤去するのか。言ってることは同じだ」
 正直、これらの発言を書き起こすことにも躊躇する。後に百田は「冗談で言ったこと」だと抗弁したが、たわむれの軽口にも限度というものがあるはずだ。(略)
透けて見えるのは沖縄への「蔑視」だ。


百田発言を巡って、琉球新報の編集局次長、松元剛へのインタビューも紹介されている。
P42
「沖縄県民が地元紙に影響され、いや、マインドコントロールされ、“歪んだ”世論ができあがっているかのような言説が飛び交うことに、心底あきれました。暴論もいいところですよ。言うなれば、沖縄県民には主体的な判断能力がないと見下すようなものです。県民をなめている。県民を愚弄し、侮辱するものです。我々の側にだって、世論をコントロールしてやるなんて意識はないですよ。そんな傲慢な姿勢があれば、とっくに読者から見放されているはずです」

P44
 最近の事例も挙げておこう。
 14年11月9日、安倍内閣の応援団を自称する評論家の櫻井よしこは、豊見城市で「沖縄のメディアは真実を伝えてきたか?」と銘打った講演を行った。
 以下はその際の発言である。
「『朝日新聞』は悪い新聞です。慰安婦のことで大嘘をついて、福島第一原発の吉田所長のことでも大嘘をついていました。それと同じくらい悪いのが『琉球新報』と『沖縄タイムス』です」
「『琉球新報』と『沖縄タイムス』の記事は、『日本を愛する気持ちはない』としか読めない」
「あの人たち(地元2紙)が国政に影響を与えることがあってはいけないのですけれども、ここで、この新聞を読んでいる方、ちょっと手を挙げて。……たいがいの人がとっている。『琉球新報』や『沖縄タイムス』に代わる新聞がなかなかない。できたら、本土の比較的まともな『産経新聞』とか『読売新聞』みたいな新聞がここでも定着していくといい」
 櫻井はそのうえで沖縄2紙の「不買運動」も呼び掛けたのであった。
 そして「百田発言」から1年近くが経過した16年5月にも、またもや耳を疑うような暴言が飛び出している。
「沖縄には琉球新報と沖縄タイムスという、あきらかにおかしな新聞社が2社ございます。これ、つぶれろと言って非難を浴びた有名な作家もおられますが、これは本当につぶれたほうがいいと思っています」
 そう言ってのけたのは神奈川県議の小島健一(自民党)だ。東京都内で開催された沖縄県祖国復帰44周年記念集会での発言である。
 新聞批判だけであれば「百田発言」の焼き直しに過ぎなかったが、問題はこの後である。小島は沖縄の基地問題に言及し、以下のように続けた。
「基地反対だとかオスプレイ反対だとか毎日のように騒いでいる人がいます。これを基地の外にいる方ということで『きちがい』と呼んでおります」
 県議の看板を背負った人物とは思えぬ下劣な暴言である。

 政府と沖縄の間に溝が生じたとき、あるいは沖縄が政府の意に沿わない世論を生み出すとき、こうした声が政府やそこに近い場所から響いてくる。
「うちの新聞だけでなく、タイムスさんも含めて、沖縄地元紙は確かに基地問題では政府に厳しい論調をとっています。でもそれはイデオロギーでもなければ、商いの手段でもない。戦争と差別と基地問題に翻弄されてきた沖縄にあって、それは新聞の骨格であり、軸足なんです」
 その後、私は多くの記者から同じ言葉を聞くことになった。


第2章 捨て石にされ、主権を奪われ続ける島
「沖縄タイムス」儀間多美子氏の発言を取り上げている。
P108
「沖縄の新聞は偏向しているのかと問われれば、偏向してますと大声で答えたいです。そもそも沖縄を政治の辺境に追いやったのは誰なのかと逆に問いただしたい。私たちはこうした場所から伝え続けていくしかないんです。嫌われても、うるさいと思われても、大声で叫んでいくしかない。だって、どれほど大声で国に向かって叫んだところで届かない。実際、沖縄はいつも負けている。ならば叫び続けるしかないですよね」

多くの、知るべきことが書かれているが、以下の部分が、肝だと思う。
P116
 何度でも記す。
「特殊」なのは沖縄の新聞ではなく、沖縄の置かれた環境なのだ。
 中央政府の「偏見」に抗えば「偏向」だと指摘される。こんな理不尽なことはない。
 私には、メディアが政府によって「なめられている」としか思えない。


神話としての「沖縄経済=基地依存」 の章も重要。P130 からの要約。
「基地依存」によって沖縄が「甘やかされている」と考えている者」、あるいは基地の存在を「安全保障のためには当然」だと合理化する者も決して少なくない。
基地関連収入が県民総所得に占める割合は5%に過ぎない。
終戦から本土復帰までの27年間、米軍統治下の沖縄では日本国憲法は適用されず、医療、教育、交通などの分野で、「本土」との間に大きな格差が生まれた。振興の遅れを取り戻し、格差是正を実現するために設けられたのが「沖縄振興法」だが、他府県と比較して特別に「優遇」されているわけではない。

P132~ 引用
 一般的に、国土交通省、農林水産省、経済産業省などの国の事業官庁は、それぞれの地域へバラバラに予算計上している。しかし沖縄県に関しては内閣府の沖縄関係部局が複数の省庁にまたがる予算を総合的に調整し、一括して計上、予算請求しているのだ。
 あえてそこに「優遇」を見るのであれば、沖縄は他県と比較して国からの補助率が高いということ、そして一括交付金であるがゆえに使い道が限定されていない、といったところにあるのかもしれない。
 とはいえ、前述したように、それは日本国憲法さえ適用されなかった沖縄の「遅れ」を取り戻すための施策であり、格差解消が目的となったものである。基地と引き換えの優遇策でもなければ、「ばくだい」といった金額でもない。
 県の発表によれば、13年度の普通会計決算ベースでの沖縄県の国庫支出金は全国11位、地方交付税交付金も含めた国からの財政移転は全国14位である。けっして他府県より突出しているわけではない。

(略)
「結局、基地押し付けのためのロジックとして、基地がないと経済的に沖縄は困るという言説が意図的に流通させられているような気もするのです。やはり、沖縄への差別と偏見があるんですよね。沖縄に基地があることの是非よりも、“見返り”だの“優遇”だの、そうしたことばかりが議論の対象となってしまう。それが本当に悔しい」

沖縄で起きていることを、沖縄以外の人々がもっと知ることが大事なのだと思う。沖縄は、“特殊な歴史と事情”を抱えた県だが、同じ国の民として、他人事なんかではないのだから。

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