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内田樹氏講演会@コープ神戸生活文化センター

雨の中、「コープのカルチャー」生活文化センターにて行われた講演会へ。
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テーマは、「村上文学の魅力を語る」。
総選挙の前日でもあり、アップデートなトピックの方が聞きたいのでは?と言いつつ、テーマは一年前にすでに決まっていたそうで。でも、

長いマクラで、たっぷりといろんな方向性のお話をしてくださったのが面白かった。

 たとえば、いまこの国を覆っている知の退廃に関して。
世界における日本の学術的発信力。20年前は高いレベルだったのが、現在37位まで転落しているそう。現在の教育行政下では、あと20年で完全に沈んでしまうだろうと予測。
 費用対効果を重視するような、短期的な成果が表れないものは切り捨てるという考え方では、ブレークスルーなど起きないし、画期的な発見・発明は起こらない。日本の大学はそういう意味ではもう進学する価値がない。
(極にゃみ的にも、安倍政権の方針では、大学は学術の府ではなく、職業訓練校化しようとしているように見える。)

 村上春樹が主張した法則のひとつ、「同世代間における知性の総量は変わらない」というのも印象的なフレーズだった。

 村上春樹は、毎年ノーベル文学賞受賞候補に挙げられるので、発表の時期になると受賞を見越して、“予定稿”が用意されるのだとか。
受賞の報が入ればすかさず掲載するためのもので、内田氏は新聞社からの依頼で、もう12年、毎年書き続けているそう。

 村上作品は、発表されると各国の言語に翻訳されて世界中で読まれているが、中でも人気が高いのが、中国とロシア。この2国はいずれも、“非宗教的”である点が共通している。
 中国の場合は、元々仏教、道教、儒教、その他の辺境の宗教も併せると、多様な宗教が混在する国だったのだが、1949年に一変して宗教的な要素が排除されてしまった。社会全体からスピリチュアルなものの居場所がなくなってしまった。ロシアも似たような状況で、そんな社会に生きる人々が村上文学を読んでいる。

 台湾の淡江大学には、世界で唯一、村上文学の研究センターがあり、招聘されて講演をしたこともあるとか。来年には日本で学会を行う予定もあるそうだ。

 本題は、村上文学の系譜の解説から。村上春樹は、小説を書くという行為について、「鉱脈」「水脈」を掘り当てる、というような表現を使う。鑿を手に、コツコツと岩盤を割り、穴を深くうがって自分の中に眠っている鉱脈を掘り当てるような作業。
 その鉱脈は多層構造で、深く掘り下げることで、「ある種の基層」に到達する。そこでは、「他者と共通の基層に触れて、交流することができる」と述べているそうだ。

 春樹自身は、レイモンド・チャンドラーの『ロング・グッドバイ』は、スコット・フィッシュジェラルドの『グレート・ギャツビー』を下敷きにしているのではないか、と指摘しているが、内田氏の考察によると、それ以前にアラン・フルニエ『ル・グラン・モーヌ』があり、もしかするとその前にも同じ系譜の作品があるのではないか。
 そして、春樹の『羊を巡る冒険』も、本人は触れていないが(気づいていないのか、気づいていてあえて述べないのかは不明)、同じ系譜の作品。ほかの研究者は誰もそのことを指摘しないが、おそらくそうだろうと思う、とのこと。

 これらの物語は、人類共通の「成熟の物語」。
無垢で、純粋で、弱さを持った少年期の自分と訣別し、タフな大人になるためのイニシエーションを乗り切るための癒しの物語。
『ギャツビイ』のニック・キャラウェイとジェイ・ギャツビー、
『ロング・グッドバイ』のフィリップ・マーロウとテリー・レノックス、
『羊をめぐる冒険』の「僕」と「鼠」は、それぞれ自分自身と、アルター・エゴ。

極にゃみ的には、村上作品はほとんどちゃんと読んでいないのだけど、面白いお話だった。

今回のお話は、以下のブログ記事が下敷きになっていると思われる。
★内田樹の研究室「村上春樹の系譜と構造」…ココ!

【覚書】
内田樹氏の著作に最初に触れたのは2012年3月に読んだ『邪悪なものの鎮め方』。

荒天の武学』2016.9
日本戦後史論』2016.8
「意地悪」化する日本』2016.7
聖地巡礼ライジング 熊野紀行』2015.4
街場の戦争論』2014.10
街場の憂国会議』2014.9
憲法の空語を充たすために』2014.9
街場の憂国論』2014.4
現代霊性論』 2012.3


講演会は「内田樹が語る『街場の戦争論』~グローバリズムと憲法九条~」、
凱風館」での「寺子屋ゼミ拡大版」、
2016年7月神戸女学院大学2016年度春季公開講座「国境を越えて」~『戦争に負けるということ』など。

フォルクスガイスト、シャーマン、メタファー通路、上田秋成、雨月物語…気になるキーワードはまだまだたくさんある。

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