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『新・人は皆「自分だけは死なない」と思っている 防災心理 自分と家族を守るための心の防災袋』

シグマのMLで知った防災アドバイザーの方が書かれた本を読んでみた。
Jibundake_yam防災システム研究所所長の山村武彦氏。MLでは、最新刊『災害に強いまちづくりは 互近助の力 隣人と仲良くする勇気』 が紹介されてたのだけど、とりあえず“うちの書庫”(近所の図書館)にあったやつを手配してみた。

本書のタイトル通り、人は誰しも災害や事故に遭うまで「そんな目に遭うとは思っていない」もの。それは、意識が高くないとか、不見識というより「そういうふうにできている」のだということがよくわかった。「正常性のバイアス」は悳 秀彦先生始め山の講習でさんざん聞いてるけど、似たような心理はいっぱいあるみたい。

『新・人は皆「自分だけは死なない」と思っている 防災心理 自分と家族を守るための心の防災袋』
山村武彦 著
宝島社 刊
2015年4月 初版発行

まえがき から
 失ったら取り返しのつかないもの、それは「命と心と時間」である

東日本大震災から3年後、被災地に対する意識や関心が風化していると感じるかというリサーチを実施したところ、全体の70%超えの人が「風化している」と答えた。これは、意識の持ちようの問題ではなく、あるバイアスが働いているのだそうだ。

(引用)
人には、ネガティブ記憶を早く忘れようとし、ポジティブ記憶に執着しようとする「感情弱化バイアス」がある。

※不快感情を快感情より弱化させる心理的傾向

このあと、本篇で膨大な「バイアス」が実例とともに紹介される。
・感情バイアス:
 心地よい感情効果のあることを信じたがり、不快情報や精神的苦痛を与えるような厳しい事実を受け入れたがらない心理的傾向
・正常性バイアス:
 先入観にとらわれ、異常事態でも「正常の範囲」と誤認し、対応を誤る心理的傾向
・アンカリング:
 最初にインプットされた数字や情報で全体を判断したり、行動や判断の自由が限られたりする心理的傾向。繋留効果ともいう
・エキスパートエラー:
 警察、消防などプロの防災関係者が危機管理において犯す判断ミス。また、誤った専門家情報を過大評価して対処を誤ること
・凍りつき症候群:
 予期せぬ事象が突発的に発生したとき、心と身体を緩慢動作にしてしまう心理的傾向(※)
・確証バイアス:
 先入観に一致する情報だけを受け入れ、さらに思い込みを強化していく心理的傾向
・後知恵バイアス:
 生じた事象について「そうなると思っていた」と後づけする心理的傾向
・経験の逆機能:
 過去の事例や経験だけにとらわれて判断を誤る心理的傾向

※「凍りつき症候群」は、明らかに危険が迫っているのに、緩慢にしか動けない状態で、東日本大震災のとき、背後に津波が迫っているのに、ゆっくり歩いている人の姿がけっこう目撃されたそう。運よく助かった方の証言によると、急いで逃げないといけないと頭ではわかっていたけど、なぜか身体が動かなかったとか。
 これは、肉食獣の襲撃に怯えながら暮らしていた時期からの習性?で、動かないエサは病気と判断して肉食獣が食べない?からだという説もあるらしい。

東日本大震災のとき、児童と教員に多数の死者を出した石巻市の大川小学校では地震発生直後に教員から(たぶんマニュアル通り)
「机の下に避難」、その後「校庭に避難」の指示が出された。
5、6年生の児童たちは、
「山さ上がろう」「いつも俺たち、上がってっから」「ここにいたら死ぬべや」と訴えて、何人かは裏山に向かおうとしたものの、教師に「地割れが起きる」と引き留められた。
児童を校庭に集めて点呼を取り、待機させたままどうするかの議論が続けられた後、避難場所に指定されていた(津波が来る方向へ)誘導。結果的に、児童76名、教員11名のうち、助かったのは児童4名、教員1名のみという痛ましい結果になった。

岩手県釜石市では、以前から群馬大学大学院の片田敏孝教授の指導を受けて防災教育を実施していた。
「想定を信じるな」「最善を尽くせ」「率先避難者であれ」という“津波避難三原則”を叩き込んでいた。

釜石市鵜住居町の東中学校では、教師が指示するまでもなく生徒たちは自分の判断で校庭へ避難。先生は「点呼はいいから早く避難しろ」と叫び、あらかじめ避難場所にきめてあった場所へとみんなで走った。
隣接する鵜住居小学校では、耐震補強工事が終わったばかりの鉄筋コンクリート3階建ての校舎で、雪も降っていたので3階に児童を集めようとしたが、叫びながら走っていく中学生たちを見て、そちらへ避難することを即断。小中学生600人は、標高10mの避難場所に着いたが、裏の崖が崩れそうになっているのを見て、さらに400m離れた標高30mの地点へ移動することにし、中学生らが小学生の手を引いて避難。
その後、鵜住居川を津波が遡上し、三階建ての小学校の校舎は一気に水没した。

釜石市では、学校を休んでいた生徒など5名を除く2921人が助かり、生存率じつに99.8%。「釜石の奇跡」と言われたとか。

陸前高田市では、地震発生時、市民体育館で県立高田高校の女子テニス部部員15名が練習をしていた。大きな揺れで壁の一部が落ち、停電で真っ暗に。生徒たちはすぐに外へ出て、顧問の指示で高台のグランドへと避難した。この生徒たちは全員無事だったが、市民体育館は避難所に指定されていたため、生徒らが脱出したのと入れ違いに、近隣住民がたちが集まってきた。そこへ15.8mもの津波が襲ってきて、ほぼ天井まで水没。天井のわずかな隙間で助かった人もいるが、多くが犠牲になった。高田市では、51年前のチリ地震のときの津波を基準として防潮堤を築き、避難場所を指定していたという。

また、本書では、福島第一原発事故についても、冷静な分析がなされている。
「内集団バイアス(所属する集団の成員は外集団に比べ実際には優劣に差がないにもかかわらず、人格や能力がすぐれていると評価する心理的傾向)と「確証バイアス」の面から問題点を指摘。「都合のいいデータ」を使って、実際には役に立たない防災システムであったことを明らかにしている。過去に何度も、警告も警鐘もあったにもかかわらず、無視し、対策を怠ってきたことが全電源喪失につながり、あの過酷事故の原因となったと指摘している。

また、
日本人特有の「空気を読む」の危険 という項では、評論家の山本七平氏の『「空気」の研究』を引いて、第二次世界大戦末期に撃沈した戦艦大和のエピソードを紹介している。
出撃すれば100%撃沈されることは自明の理で、これを無謀とする人々はすべて明確な根拠があるのに対して、出撃を肯定する人々の根拠は「もっぱら空気」。
そんなもので、乗員2498名は海の藻屑と消えることになった。

ほかにも、ホテル火災や地下鉄火災などで、なぜか「逃げようとせず」多数の被害が出た事例などを引きながら、心理的な落とし穴がたくさんあることを紹介している。

最終章の「心の防災袋」からエッセンスだけ紹介
発災時には
・持ち出すものは命だけ
・周りが逃げなくても、危ないと思ったら逃げろ
・専門家が大丈夫と言っても、危険を感じたら逃げる
・地震の時、古い木造家屋にいたらただちに外へ
 従来の「外へ出るな」は、落下物の危険のためだが、古い木造家屋が倒壊するともっと危険
・火が出たら、「知らせる・消す・助ける・逃げる」。危なかったら逃げるを優先
・海の近くで地震が起きたら、津波警報を待たずに高台へ。
 外洋に面しているなら15m、V字湾の奥は20m、内海は5mの津波を想定。
 高台へ避難できないなら、5階建て以上のビルへ。
・街中で地震に遭ったら、バッグなどで頭や首筋を守り、建物から離れるか、安全そうな建物へ。クルマが暴走する可能性があるので、道路には飛び出さない。
普段から街並みを見ながら、ココで地震が来たらどうするか、を考えておく。
・運転中なら、ハザードランプを点灯し、急ブレーキにならないように前後のクルマに注意しながら速度を落とし、左側に寄せて路肩に停車。ラジオで情報を確認し、動けるようなら最寄りのSAやパーキング、広場に停める。クルマを離れるときは、キーをつけたままドアロックはせずに、連絡先のメモを残して、車検証は持ち出す。
 緊急車両の妨げになるので、幹線道路に停めないことが災害列島日本に住む者の作法である。

・地下鉄に乗っているときに地震に遭ったら、線路やトンネル内には高圧電線が走っている場合があるので、慌てて線路上に飛び出すのは危険。しかし、火災発生や煙が充満している場合に、係員の指示がないなら周囲の人に声をかけて、非常コックを開いて避難すべき。係員の指示が適切とは限らない(2011年5月のJR北海道トンネル火災のとき、係員の避難誘導はなかったが、危険と察知した乗客たちが自分たちの判断で脱出・避難して助かった)

・デパートやスーパーにいるときに地震が起きたら、陳列棚やガラス、照明器具などの点灯落下物から離れ、少しでも広い場所へ。安全ゾーン(地震一時避難場所)を設けている店もあるので、日頃から非常口や安全ゾーンを確認するようにしておく。
・地震発生直後は火気厳禁。暗いからとローソクに火をつけ、ガス漏れに引火するケースがある
・ガスの匂いがしたら、窓やドアを開けてガスの元栓を閉じる。換気扇を回すと、スイッチから火花が出て爆発の危険あり。
・避難所などへ行く場合、停電が復旧したときに通電火災が起きる可能性があるので、ブレーカーを落としていくこと。地震の揺れを感知して自動的にブレーカーを落とす「感震器付きブレーカー」に替えておくとよい。

「防災・減災の心得」として、
・命捨てるなモノ捨てろ
・まず突破しなくてはならない防災の壁は「まだ大丈夫」という先送りの心
・悲観的に準備し、楽観的に暮らす
・逃げる防災だけでなく、戦う防災訓練も必要
 身の安全が確保できた元気な人は、そこに踏みとどまって闘う訓練も必要。
 みんなが避難してしまったら、生き埋めの人を救うことも、火を消すこともできない
・国や自治体の被害想定にとらわれない
・災害は昼間起きるとは限らない
・防災訓練は「参加」から「参画」へ
・防災事後訓練より事前対策と災害予防訓練
・「みんなで助け合おう」ではなく顔の見える防災隣組で「近助」

 

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