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『海をあげる』

沖縄県出身の教育学者、琉球大学教授上間陽子さんの初のエッセイ集。
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目次には、「美味しいごはん」「ふたりの花泥棒」「波の音やら海の音」「アリエルの王国」…甘く美しい詩のようなタイトルが並んでいるが、内容は重い。

『海をあげる』
上間陽子 著
筑摩書房 刊
2020年10月 初版発行

普天間飛行場の名護市辺野古移設の是非を問う県民投票では7割超えの県民が反対し、県外からも多くの人々が猛烈な反対の声を上げる中、政府が強引に辺野古沖へ土砂投入を強行しはじめた前後に書かれたものだという。

「海に土をいれたら、魚は死む? ヤドカリは死む?」
おねしょをして夜中に起きてきた幼い娘さん。
「そう、みんな死ぬよ。」

辺野古の埋め立て強行には本当に怒りを感じるし、自分自身は現地には行けないけれど、あんな理不尽なことは絶対に許してはいけないと思う。当時の私は、美ら海を守るべく、カヌー隊として駆け付けた知人を心から応援していた。

権力は、特定の地域や人々を優遇するために使われてはいけないのと同じく、誰かを踏みにじるために使われてはならない。これまで沖縄が受けてきた負担はあまりにも大きすぎる。
けれど、それは「米軍が悪い」とか「日本政府が悪い」と断罪すれば済むような単純な問題でもなく、環境のこと、貧困のこと、搾取の構造… いろんな人々に、いろんな問題があることが本書を読めばわかる。

ここに書かれているのは、極私的なことだったり、彼女のライフワークに関わるものだったりもするのだが、いろんな話が語られる中で、印象的なのは食べ物の話。つらいときに親友が作ってくれた食べ物。娘さんに作った食べ物。心に傷を負った取材対象の女性が、フラッシュバックで食べ物が食べられなくなること…

人はどんなときも、「おいしいごはん」を食べることが大事なんだなぁと思う。

ところで、キャンプ・シュワブの土の下には、400人もの方がまだ眠っておられるそうだ…。
悪夢のような激戦で多くの人々が命を落としたあの沖縄戦の後、そこには捕虜の収容所が作られて、毎日たくさんの人びとが亡くなっていったとか。

P226
戦場をさまよって捕虜となって生き延びたと思ったのもつかのま、飢えて死んで、死んだその場に埋められて土の中で骨になって、それでも家に帰ることができないひとたちがあの土の下に眠っている。そのひとたちの死体の上にキャンプ・シュワブはつくられて、そして今度は新しい基地の建設が進められている。

P232
 東京で暮らしているときに驚いたことのひとつは、軍機の音が聞こえないということだった。線路沿いで暮らしていたので深夜まで電車の音は聞こえたけれど、それでも部屋が震えることもなく、テレビの電波が乱れることもなく、隣にいるひとの声が聞こえなくなることもなかった。
 私が沖縄出身だと話すと、沖縄っていいところですね、アムロちゃんって可愛いよね、沖縄大好きですなどと仲良くしてくれるひとは多かったが、ああ、こんなところで暮らしているひとに、軍隊と隣り合わせで暮らす沖縄の日々の苛立ちを伝えるのは難しいと思い、私は黙り込むようになった。


P233
 一九九五年に沖縄で、女の子が米兵に強姦された事件のときもそうだった。基地に隣接する街で、買い物にでかけた小学生が四人の米兵に拉致されたこと、あまりにも幼いという理由で一人の米兵は強姦に加わらなかったものの、残りの三名は浜辺でその子を強姦したこと、沖縄では八万五〇〇〇人のひとびとが集まる抗議集会が開かれたこと。東京でも連日のように、この事件は報道された。
 東京の報道はひどかった。ワイドショーでは、被害に遭った女の子の家が探し出され、その子の家も映された。その映像をみれば、私が暮らしていた狭い島では、被害にあったのがだれなのかがはっきりわかる。
 被害にあったのはこの子だけじゃない。手のひらに、草を握りしめたまま強姦されて殺された女の子の母親は、腐敗した娘の服さえ捨てられなかったと聞いている。
 あの子は最期に何をみたのだろう? 娘の手のひらをひろげて草をとりだした母親は、いまどうしているのだろう?

P237
 近所の小学生と立ち話をしているとき、私たちのちょうど真上をパイロットの顔が見えるほどの近さで軍機が飛んだ。軍機が飛び去ったあと、「びっくりした! うるさいね!」と私が怒ると、「うるさくない!」とその小学生は大きな声で即答した。
その子の父親が基地で働いていることを、あとになって私は知った。

(中略)

 爆音の空の下に暮らしながら、辺野古に通いながら、沈黙させられているひとの話を聞かなくてはならないと、私はそう思っている。


P240
 秋田のひとの反対でイージス・アショアの計画は止まり、東京のひとたちは秋田のひとに頭を下げた。ここから辺野古に基地を移すと東京にいるひとたちは話している。沖縄のひとたちが、何度やめてと頼んでも、青い海に今日も土砂がいれられる。これが差別でなくてなんだろう? 差別をやめる責任は、差別される側ではなく差別する側のほうにある。

差別をやめる責任は、差別する側のほうにある。自分には関係ないと、差別を黙認することも罪。知らずにいることも罪。私にできることは何なのか。やまとんちゅには、考えて行く責任があると思う。海をひとりで抱えることはもうできない。だから、あなたに、海をあげる

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コメント

にゃみにゃみさーん!
大変内容の濃いブログをありがとうございます。実は私も南の島です。あなたが何を怒っていらっしゃるのか、何を声を大にして叫びたいのか、、わかります!あなたの胸の痛み、私にもひしひしと伝わってきます。

今日のブログ、拝見していて怒りの涙が湧き出てきました。

投稿: ヒロミ | 2021年5月25日 (火) 08:49

冷たい水シャワーを浴びて、気持ちを落ち着かせるために島の特産品のハイビスカスティーを飲んでいます。髪のしずくをタオルで拭き取りながら、今朝の神戸新聞を見ました。
にゃみにゃみさんの書かれた山の四季便りが掲載されています。

梅雨の晴れ間のお日様の光、洗ったばかりの髪のしずく、温かいハイビスカスティーの湯気が顔全体にかかる、開いたばかりの新聞からインクの匂いがする。

にゃみにゃみさんの名前を見つけた喜び。。。

今日も一日、お元気でご活躍くださいね。

投稿: ヒロミ | 2021年5月25日 (火) 09:00

ヒロミさん、

ありがとうございます。
南の島のご出身でしたか…

遠い島のお話は、なかなか本土の人にはリアリティを持って伝わってないように感じます。
遠い遠い島で起きていることで、自分には関係がない… と、多くの人が思っているのだと思います。

でも、直接手を下していなくても、この国の政府がしでかしていることに、国民はいくばくかの責任があると思います。

具体的なことは何もできないかもしれないけれど、せめて知ること、伝えること、、、

ヒロミさんが受け止めてくれて、よかったです。
ありがとう。

投稿: にゃみ。 | 2021年5月25日 (火) 14:13

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